第6話「閃治郎、武士ノ始祖ニ出会ウ」
王都ヴォータンハイムへと、
討伐したガルムに関しては、意外なことに助けた老夫婦が引き取りたいと申し出てきた。すぐにその場で解体が始まり、肉、革、骨、爪に牙が取り分けられる。
害獣の
命を拾ったこと以上に、大自然の恵みを得られたことに老夫婦は感謝してくれた。
「民を脅かす、
閃治郎が戻ってきたのは、最初に目覚めた部屋のある
だが、閃治郎はまだなにも説明を受けていない。
それで思わず、向かいに座る女性のことを見詰めてしまう。
いまだに彼女は、戦国武将のような鎧に身を包んでいた。その肌は異様に白く、長い長い黒髪とのコントラストが美しい。切れ長の目には、瞳が理知的な輝きを放っていた。
「ん? なんじゃ、どうした。小僧、ワシの顔になにかついてるかや?」
謎の女武将は、先程から
黙っていれば絶世の美女なのだが、骨を
むしろ、閃治郎は底知れぬ
隣に並ぶ足利が、そういえばと思い出したように喋り出す。
「では、改めて紹介しますかな……マコトちゃん、リシアちゃんもこっちに来てくれないかな? あと、私におかわりを。やはり、この
どうにも居心地が悪くて、閃治郎は先程から
足利もそうだが、例の女武将の力量をなんとなく察しているからだ。この場では今、自分が一番弱い。足利よりもさらに強い気を、目の前の美女から感じるのだ。
そうこうしていると、
「はい、あっちゃん! 沢山あるから、ガンガンおかわりしてねっ」
「やや、それはかたじけない。いやあ、ヴァルハランドのご飯は
「それよりさ、ほら……まーくんのこと、紹介しないと」
「おっと、その話だったね。うんうん」
まーくん?
それがどうやら、鎧武者の名らしい。
そして、彼女は
「では、
「はっ、はい! って……ええーっ!? まっ、ままま、将門! ……
「おうてばよ。ほれ、小僧も飲め」
「あ、いえ、僕はお酒は」
「なんじゃ、つれない奴じゃなあ」
閃治郎は驚くあまり、目を白黒させてしまった。
平将門といえば、武士の
だが、どっかと座り直した将門は、どう見ても女である。
彼女は大きな
「ふう、ワインというたか……
豪快さはなるほど、将門公を名乗るだけの説得力がある。
時代がかった
だが、女だ。
どう見ても、女なのだ。
「将門公が女性だったなんて、僕は聞いてませんよ!」
「ワシがおなごに見えるか、小僧」
「どう見ても女の人でしょう! ……ま、まあ、ここは死後の世界らしいですから、その」
「うむ、細かいことは気にするでないわ!」
性別以外は、確かにあの平将門を
そして、
「いえいえ、私も驚きましたから。お気になさらずに、センちゃん」
「セッ、センちゃ……あ、ああ。しかし足利殿」
「いつも通り、あっちゃんと呼んでくれないかな……さもなくば、
「い、いや……一度も呼んだことはないですが」
ニコニコと人の良さそうな笑みで、足利はせっせと料理を口に運ぶ。
そんな彼に勧められて、閃治郎も渋々箸を手に取った。
将門はと言えば、ほろよいで上気した顔を赤らめている。
真琴がパンパンと手を叩いたのは、そんな時だった。
「はい、自己紹介オッケー! で、リシアから大事な話がありまーす。我等がサムライの
なんだかリシアは気恥ずかしいのか、真っ赤になって
酷く頼りない印象があるが、リシアはエルフとかいう種族、それもハイエルフの高家に生まれた娘だ。
「え、あ、んとぉ……みっ、みなさん! 今日はお疲れ様でしたぁ。先程、エルグリーズ様からの使いが来て、ガルム討伐の報酬が支払われたみたいです」
他にも、閃治郎が加わったことで、
リシアが
あっという間に、なにかの一覧表のような文字列が並んだ。
それぞれの文字が、線で結ばれ
「これが、現在のサムライのスキルツリー……要するに、皆さんのスキルを体系化してまとめたものです。他の座に比べて、新しくできたばかりなので種類は少ないですけど」
異世界のリシアが出した文字なのに、不思議と読める。
そういえば、リシアとも言葉が通じることに閃治郎は気付いた。
このヴァルハランドに来て、驚くことばかりですっかり忘れていたのだ。それくらい違和感なく、リシアと話せている。それも、
そのことについて、リシアは簡単に説明してくれた。
「これも魔法なんです。ルーンの魔法で」
「ふむ……それでリシア殿が日本語を」
「いえ、私はこの国の言葉で話して書きますよぉ。ただ、それが皆様には、故郷の言葉に見えるように魔法をかけてるんです」
「なんと! ……まさに魔法という訳か」
妖術使いとも戦ったことがあるが、こうした実用的な魔法の方が驚く。やれ火を出すだの、風を刃に変えるだの、くだらない
だが、
それでリシアも、改めてスキルの説明に戻った。
「こうしてスキルを体系化することで……例えば、センジロウ様の技を、アシカガ様やマサカド様、マコト様が使えるようになります」
「なっ……どうやって!」
思わず閃治郎は立ち上がってしまった。
鍛え抜かれた
そんな馬鹿なと思ったが、リシアは困惑しながらも教えてくれた。
「それが、座を守護する巫女の力なんですぅ。私が、皆さんの力を理解し、スキルとしてまとめてるんです。こうして、職業ごとに
「信じられん……し、しかし、ここには確かに僕の技が書いてある」
ぼんやりと光る目の前の文字を追えば、先程ガルムを一刀両断した技があった。
奥義、
他にも無数の奥義、そして一撃必殺の切り札である秘奥義がある。
それすらも、光ってこそいないが、空中に名前が並んでいた。
「ふむ……そういえば小僧、先程妙な剣技を使っておったな。あれは
「将門公、あれは」
「公、はいらぬ。ワシは敗軍の将じゃぞ? こそばゆいからやめよ」
「は、はあ。とにかく、将門殿。先程の技は、我が流派が退魔のために編み出した秘剣。僕でも体得するために、かなりの修行を積みました」
「まあ、それがリシアを通じて簡単に使われれば、それは確かに面白くないのう」
リシアの話では、他の座……ナイトやウィザードの巫女たちは、もっと沢山のスキルを管理しているらしい。それもその
日ノ本のサムライがやってきたのは、つい最近なのである。
「まあ、よく見よ小僧」
「……その小僧っていうのは、ちょっと」
「ふむ。確か……乾閃治郎というたな? ならば、セン! この、スキルツリーとやらを見るがいい。光の
盃を持った手で、将門は宙に浮かぶ表を指さした。
確かに、光っている文字と、黒く沈んでいる文字がある。
閃治郎の持つ剣技も、より難易度の高い奥義はまだ黒かった。
どうやら、黒い文字のスキルはまだ誰も体得不可能らしい。その手前のスキルを
他には、弓や槍、そして剣術のスキルが並んでいる。
剣術のスキルが、一番枝分かれが多く、種類は多岐にわたっていた。
「さて、リシアや」
「はっ、はは、はいっ! マサカド様」
「なんであったかのう……そう、たしか、ソウルアーツ! 一撃必殺の大いなる力。そういうのがあった筈じゃが……はて、このスキルツリーとやらには見当たらんのう」
――ソウルアーツ。
耳に
だが、
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