第5話「閃治郎、異界ノ魔物ト刃ヲ交エル」
――異世界ヴァルハランド。
異教の神々が、来るべき
死後の国であることを差し引いても、彼にとっては初めての異国の地だった。
「なるほど……
街道を歩く閃治郎は、腕組み何度も
同行してくれてる、
見慣れぬ木々が左右に並ぶ中、先程までいた
徒歩での移動でも、二人の少女はなかなかの
「つまりね、セン! 今の所はヴァルハランドには、ウォーリアーやナイト、ウィザードやクレリックといった職業があって」
「マコト様、言葉が……センジロウ様には、
「あ、そっか! つまり、戦士や騎士、魔導師に
「ふふ、マコト様は色々なことを知ってるのですね」
閃治郎の左右で、真琴とリシアが笑う。
つまり、招かれた勇者はその技量や能力によって、定められた職業に割り振られるらしい。そして、それぞれの職業には、座を守る
巫女は、座に属する勇者たちの戦いを記憶し、加護を与えて祝福する。
巫女の力で、勇者たちは互いの技を共有したり、さらなる力を開花させるのだ。
新たな職業として設けられた、サムライ……その座を守護する巫女が、リシアである。
「大まかな話はわかった。つまり、この国に新たにサムライという生き方ができたということか。そして、それを根付かせ次なる者たちへと受け継いでゆく……それがリシア殿の使命」
「はい。
「一人は
ドスン! と突然、横から
見下ろせば、真琴が
「わたしもサムライなのっ! ……そ、そりゃ、あんまし強くないけど」
「あ、ああ、すまない。そうだったのか……僕はてっきり、
「ああ、このセーラー服? これね、学校の制服なの。新選組でいう、その段だら模様の
「ふむ、しかし
「わたしは嫌いじゃないけどな? 結構需要、あるし。世のおじさんたちは、みーんなこの服が好きなの! ヴァルハランドでだって、そういう感じだけど」
なんだか、さっぱりわからない。
だが、閃治郎は生まれも育ちも京の
どこの
その真琴だが、相変わらずあの妙な刀を背に背負っている。
一度触らせてもらったが、ふかふかの奇妙な素材でできた、ただの
「で、リシア。今日はどんなお仕事? 先にあっちゃんたちが行ってるんだよね」
「あ、はい。近くの村の害獣退治です。センジロウ様には、少し申し訳ないんですが……えっと、勇者様の中には、名誉や誇りを
リシアは相変わらず、
彼女が不安げに
元より閃治郎の零番隊は、
このヴァルハランドでは
まだまだ仲間や副長のことが気がかりだったが、自分が死んだと言われれば今は忘れるしかなかった。
「僕は汚れ仕事の始末屋だから、気にしなくていい。民を守ることこそが、武士の
「だってさ、リシア。ふふ、センってさ……結構いい奴?」
「当然のことだ。僕たちはサムライだからな」
リシアも、閃治郎の言葉にようやく笑顔を見せてくれた。
だが、和気あいあいとした郊外の散策が、突然中断させられる。
女の悲鳴が響いて、即座に閃治郎は地を蹴った。
一瞬で全身の神経が、緊張感を張り巡らせた。
常に心は
やがて、左右の森が開ける。
ひっくり返った荷馬車が目に入るや、閃治郎はさらに加速した。
「むっ、あれが害獣……なんと、初めて見るもののけだな!」
腰の愛刀へと手を
荷馬車から放り出された老夫婦の前に、見るも巨大な獣が
真っ赤な体毛が文字通り、炎を
すかさず閃治郎は間に割って入り、背に老人たちを
「
害獣は、見た目は
「まずは小手調べだ……こいつが避けられるかっ!」
ヒュン、と風が歌った。
閃治郎の右手が、高速で剣を抜き放つ。
抜き放たれた
だが、閃治郎は利き手に鈍い感触を感じて、剣を鞘へと戻す。
ここまで
「……硬いな。この手応え、生き物とは思えない。まるで
初手から全力の
だが、並の魔物ならば
目の前の炎獣は、生まれ持った天然の装甲でそれを弾いたのだ。
追いついてきた真琴とリシアが、背後で老夫婦を保護してくれている。
手がない訳でもないが、あまりにも相手を知らなすぎる。
しばし眼光のみで敵を抑えていると、
「センジロウ様っ! あの魔物はガルム……見た目通り、強力な炎を操ります! 今、私が……センジロウ様に、サムライの座の加護を!」
ガルムを牽制しつつ、ちらりと肩越しに閃治郎は振り向いた。
両手を広げるリシアが、豊かな胸の実りを揺らして天を仰ぐ。ぼんやりと光る彼女から、透き通るような歌声が響き出した。とても優雅な、聴いたこともない調べだ。
リシアの歌は、閃治郎にはわからない言葉を連ねて周囲にたゆたう。
「これは……力が、
腹の底から、不思議と力が湧き上がってきた。
張り詰めた精神が、不思議と
だが、今までの常識を
既にもう、迷いも
「ならば、ガルムとやら……その炎、我が奥義を持って
居合に構えて身を沈め、精神力を集中する閃治郎。
すると、飾り気のない鞘に無数の
「
抜き放たれた
だが、それは遅かった。
閃治郎の切っ先は、その射程から逃れたガルムを追って膨れ上がる。
四神青龍の姿を
ガルムはそのまま、着地した衝撃で真っ二つになった。
閃治郎はくるくると剣を回して、何事もなかったように鞘へと戻す。
「これにて、
「い、いえ……それより、今のは」
「これぞ、
振り向けば、真琴が老夫婦に寄り添っている。どうやら怪我はないようだ。それでようやく、閃治郎も張り詰めた緊迫感を
いつだって、彼の剣は民のために振るわれてきた。
それが、それこそがサムライだと信じて戦ってきたのだ。
なにより、リシアの笑顔がなによりも
だが、不意に白けたような拍手が鳴り響く。
「やるもんだのう! 見たかや、足利! 見事なもんじゃ」
「この地に来たばかりで、すぐにガルムを倒してしまう。うーん、やはりなかなかの使い手のようですね」
「うんうん、至極結構! しからば始めるかのう。サムライの
閃治郎は、見た。
気付けば、いまだ
突然その場に現れたのは、足利ともう一人。
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