第29話

 下の控え室にいると、白鳥さんが戻って来た。




「どーでした?」




 俺が質問すると、白鳥さんが青ざめた表情で答えた。




「それが、包帯の上から指圧しようと思ったんだけど、空気を押してるだけなのよね。 全く感触、無くて……」




 ……ま、マジでか。


ミイラ男の中味って、何も無いのかよ。


明日はいよいよ、本物のバケモノを相手に接客しなきゃならないのか?




 その日の夕方には、ミイラ男はホテルから出て行った。


俺たちは飯にありつきつつ、明日どうするかを話合った。




「アイツが言うには、明日はコウモリ伯爵、らしい」




 黒木さんがカナシオから聞き出した情報を口にする。


コウモリ伯爵とか、吸血鬼のことだよな……


白鳥さんが自分の体を抱き留めて、ヤダ、と小さく呟く。




「十字架かニンニク、もっといた方がいいかも」




「……そうだな」




 俺たちは控え室から出て、キッチンへと向かった。


冷蔵庫にニンニクが入ってるかもだ。


ところが、いくら探しても、それらしき物は見あたらなかった。


















 翌日、コウモリ伯爵がホテルに現れた。


白い髪に、時代錯誤の黒い衣装。


中世の貴族みたいな出で立ちだ。


昨日みたく鞄を持って、部屋に案内する。


そこまでは何事も無かったが、しばらくして、問題が発生。


血が欲しい、とわめき始めたらしい。


俺ら3人は、ジャンケンで誰が部屋に行くかを決めた。




「うっそだろ! このグー、呪ってやる!」




 俺と白鳥さんはパーを出し、負けたのは黒木さん。


小一時間して、ぐったりした黒木さんが控え室に戻って来た。




「あ、大丈夫でした?」




「……何とか、な」




 黒木さんは、「血をよこせ!」と吸血鬼が言うのに対し、ワタシコトバワカラナイ、トマトジュースアルヨ、とひたすらカタコトで逃げ切ったとのことだ。




「で、トマトジュース渡したんですか?」




「ああ、試しに飲ませて、今はグッスリだ」




 機内で分けて貰った睡眠薬を、トマトジュースに混ぜたらしい。


それから吸血鬼はずっと起きてこず、どうにか2日目を凌ぐことができた。


そして3日目、最終日に現れたのは、雪の女王だった。


















 例の如く、俺らは朝9時に扉の前で待機していた。


正面の扉が開かれると、冷気が室内に入り込んでくる。


そして、雪の女王が現れた。




「随分、ボロいホテルだこと」




 目の前の女は、どこかの魔女が口にしそうなセリフを吐いた。


見てくれは40代後半のおばさんって感じで、性格も悪そうだ。


カナシオが駆けつけると、突然、その体が凍り付けになった。




「か、カナシオ!」




 雪の女王が指を触れると、体に亀裂が走る。




「ノ……」




 カナシオは何かを言いかけたが、砕けた破片として辺りに飛び散った。


白鳥さんが叫び声を上げようとするも、言葉すら凍り付く。




「あなたたち、最高のもてなしが出来なければ、この黒いのと同じ目を見るわよ」




 俺は、とにかく雪の女王を部屋へと案内した。

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