第27話

ホテルは木造の2階建てで、1階に食堂がある。


部屋数は合計4つしかなく、ホテルというよりも旅館に近い。


部屋でゆっくりしたい所だったけど、早速、カナシオが言った。




「明日から3日間、このホテルに宿泊する客様の相手をして頂きます。 明日の予約客は……」




「ちょっと待て!」




 一方的に喋るカナシオを黒木さんが遮った。




「街の観光や、オーロラ観賞は?」




「街の観光などしている暇はありませんよ。 オーロラ観賞は最終日の夜にして頂く予定です」




「そ、そんな……」




 黒木さん、白鳥さんが固まる。


街の観光はいいとして、オーロラを見るチャンスが1回しかないのは酷だろ。




「さあさあ、ボサっとしている暇はないですよ。 早く仕事が終わればその分早く休めますから」




(ぶーたれてても仕方ないし、とっとと片すか)




 俺は、何をすればいいのかを質問。


お客が泊まる予定の201号室の清掃を言いつけられた。




「モップがロッカーに入ってますので」




 カナシオは、控え室まで俺らを案内し、そこにあるロッカーから、モップを1本取り出した。




「こいつで床をゴシゴシやればいい訳だ」




「……」




 俺以外の2人の動きはノロい。


俺だってしんどいけど、やるしかねーよ。




「早いとこ、やっちゃいましょーよ」




「……分かったよ」
















 白鳥さんはベッドのシーツの取り替え。


黒木さんは机の上とかにたまっているホコリを雑巾で拭き取って、俺は床磨き。


バケツに汲んだ水にモップを浸し、ガシガシと木の床を擦る。


すると、黒木さんが言った。




「あのカナシオとか言うヤツ、怪しくないか?」




「怪しい?」




 モップの手を止め、聞き返す。




「俺はアイツに良く似た奴を知っている。 千と千尋の神なんちゃらっていうアニメがあるんだが、まあ、タイトルうろ覚えだし、あんまり詳しくないけどな? それに、カオナシ、って奴が出てくるんだ」




 自分全然詳しくないですよ、という割に、やたら細かくストーリーを説明する黒木さん。


とうとう、あまり詳しくない設定を忘れて熱く語り始めた。




「俺が一番好きなタイトルは紅のぶ〇で、次が魔女の宅〇便。 その次はラ〇ュタか隣のト〇ロかで迷うが…… はっ!?」




 黒木さんが我に返った頃、清掃はほぼほぼ完了していた。




「ふぅ~、終わった!」




 家具類のホコリも、黒木さんがくっちゃべってる間に終了。


部屋から出ようとした時、黒木さんがオホン、と咳払いをした。




「すっ、すまない」




「あ、何したっけ。 カナシオが怪しいとか何とか」




「そうだ。 アイツは、俺らをずっとここで働かせる気かも知れない。 千と千尋のカオナシだって、ロクな奴じゃなかった」




 俺は、親父が奴隷として働かされていた、という話を思い出した。


まさか、気づかない内に俺も羽目られてるのか?




「そんなの…… だって、HISのツアーですよ?」




 そうだ。


ツアーを企画している会社はすこぶるまともだ。




「すり替わりだよ。 本物のツアーコンダクターは既に死んでいるかも知れん」




 シン、と静まり返る客室。


すると、キイ、と扉の軋む音がした。


みなの表情が引きつる。


扉を開けて立っていたのは、カナシオ。




「皆様、ご苦労様です。 明日に備えて、本日はゆっくりお休み下さい。 明日はミイラ男様が来られますので」




「……へ?」

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