第25話

(この仕事、案外楽勝じゃねーか)




 飯を配ってアナウンスするだけ。


そんな風に思っていたが、大変なのはここからだった。


さっき飯を配った時に文句たれてた外国人が、突然、怒鳴り散らし始めた。




「もう我慢の限界だ! 何でこの飛行機にはオレンジジュースが置いてないんだ!」




 40代前後のいい年したおっさんが、そんな事を言っているらしい。




「今すぐ下ろせって、どうします?」




 無理だろ……


放っときゃいんじゃね、と思ったが、客をなだめるのもキャビンアテンダントの仕事、とカナシオに言われた。




「すぐに応対して下さい」




 先に白鳥さんが乗客の所に行き、英語で説明する。




「申し訳ございません、今、お持ちしますので……」




「どういうことだっ! 水以外無いと言っていたぞっ」




 唾をまき散らし、叫ぶ外人のオヤジ。


まさか、うぉーたーおんりーがこんな事態を引き起こすとは……


すると、黒木さんがオレンジジュースを片手に、背後から現れた。




「俺が行く」
















「な、何だキサマッ」




「こちらでよろしいですね?」




 オレンジジュースを客の前に突き出す。


黒木さんは日本語だ。


相手に通じているかは分からない。


それでも、あの強面は万国共通。


あれに睨みつけられたら、外国人もビビるに違いない。




(ざまーみろ!)




「……」




 ワガママ外国人は、黙ってオレンジジュースを受け取った。


黒木さんが戻って来て、俺とハイタッチを交わす。


客がまた文句言い始めたら、黒木さんが何とかしてくれるだろう。
















 俺の考えは甘かった。


クレーム対応の30分後、急に一人の乗客が立ち上がり、泣きべそをかいてこう言ってきた。




「私、高所恐怖症なんです…… 薬がきれちゃって……」




 半ばパニックのこの女性。


薬を誤ってキャリーバッグの中に入れてしまったらしい。


白鳥さんが英語でなだめるも、もうダメ、と追い詰められていく。


俺らは乗客の中に精神安定剤を持っている人がいないか聞いて回り、睡眠薬ならある、という乗客を見つけることができた。


乗客にそれを服用させると、眠りについた。




「グガッ、スピー、スピー」




「ふう……」




 何とかなったか。


しかし、今度は赤ん坊の鳴き声が機内に鳴り響く。




「オギャアアアッ、オギャアアアッ」




「勘弁してくれよ……」




 断続的に続くトラブルに、夜までまともに休むことはできなかった。


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