第22話

「ちょっと悪いんだけど、ごっこ遊びに付き合ってる暇ないんだわ」




 俺が無理矢理押し通ろうとすると、待て、と叫び声を上げる。




「そのポケットの膨らみは何だ!」




 ジーンズの前ポケットに、ナイフの形が浮かび上がっている。




「携帯だよ」




「そんな細長い携帯があるかっ、見せろ!」




 ヤバい。


カニ玉から金をくすねる前に、こいつに捕まって警察に突き出される。




「うらあっ」




 俺は、おっさんにタックルを仕掛けた。


しかし、後方に飛んでかわされる。


年不相応な身のこなしだ。


更に、手にしていた竹刀で突きを放ってきた。




「おわっ」




 高速の3連突き。


その内の一つをモロに顔面に食らい、俺は尻もちを付いた。




「くっそ」




「自警団、1番隊隊長の私が相手をしてやる」




 今の3連突きといい、新撰組気取りかよ。


でも、俺は野良猫。


いくら強くても、猫の動きは読めねーハズだ。


俺は、右の壁に向かってジャンプした。




「……!」




 おっさんが突きの構えを取る。


俺は、足を掛けた壁を踏み台にして、今度は反対側の壁にジャンプした。




「なっ……」




 壁を使った高速移動。


左の壁に着地して、そのままおっさんを抜き去ろうとした時だった。




「胴!」




 腹に激痛が走り、俺はその場に悶絶した。




「ぐああっ……」




 マジかよ…… 


このおっさん、動き回ってる猫の動きを見切りやがった。


俺は、そのまま警察へと連行された。


















 バタフライナイフを所持していた事がバレて、俺は書類送検となった。


交番で名前、住所、連絡先を用紙に書いて、指紋、顔写真を撮られる。


現行犯では無かったため、身柄の拘束はされなかったが、これで俺は身元が割れて、野良猫としての活動がかなり難しくなってしまった。


肩を落としながら、俺は交番を後にした。


















 翌日は弁当屋のバイト。


早朝、電車で弁当屋に向かうと、ヨシコが俺の顔を見て質問してきた。




「おはよう! って、その顔、どしたの?」




「何でも、ない」




 自警団のおっさんの突きを食らって出来たアザだ。


昨日まで何とも無かったのに、朝になったら青アザになっちまってた。




「何か、危ないことしてる?」




「んな訳、ねーし」




 慌てて即答するも、逆に怪しかったか?




「……ならいいけど。 あ、そうそう、ノラ君に見せたいものあってさ」




 ヨシコは胸ポケットにしまっていた四つ折りのチラシを俺に渡してきた。


それを広げる。




「条件付き、格安オーロラツアー?」




「そう、値段見てみて」




 そこには、5万、という文字。


ま、マジかよ……


オーロラツアーって、普通20万くらいするよな。




「申し込んでみたら?」 


 

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