第21話
俺は今、新宿駅を降りて歌舞伎町に向かっている。
ポケットにはバタフライナイフ。
ここでオーロラツアーに行くための金を稼がなきゃならない。
でも、危ない橋は出来るだけ渡りたくない。
まともな生活だって出来るようになったし、ここで警察に捕まれば元も子もない。
だから、一発で終わりに出来るよう、今回は大物狙いで行く。
俺は、その目星を付けるために、ある人物の元へと向かった。
歌舞伎町に向かう途中の電車の高架下に、そいつはいた。
段ボールを床にしいて、小汚い格好のひげ面のじじい。
普通なら絶対に関わりたくないと思うだろうけど、俺はこいつと顔見知りだった。
「土産持ってきたぜ」
俺は、コンビニで買ってきたワンカップ(日本酒)と、から揚げクンをそいつに渡した。
「……ノラオか。 久々だな」
「元気にしてっか? 名無しのじいさん」
ずっとホームレスをしてるこのじいさん。
名前もまともに知らないから、そういう風に呼んでる。
だけど、ただ者じゃない。
どこで知り得るのか分からないが、やたらと情報通だ。
「何が知りたい?」
早速、渡したから揚げクンと酒を煽りながら、じいさんが聞いてきた。
「今晩、狩りをする。 だけど、出来るだけ大物狙いで行きたいんだ」
「……なるほどな。 それなら、今夜は絶好の機会かもな」
俺は、ゴクリ、と唾を飲み込み、質問した。
「誰が来る?」
「から揚げクン、無くなっちゃった~」
じじいは、空になった箱を逆さまにして、上下に揺らす。
あっという間に食いやがって……
「ちっ、待ってろ」
「あ、チーズのヤツね~」
再度から揚げクン(チーズ)を購入して、じじいに渡すと、じじいは話し始めた。
「大物歌舞伎役者のカニ玉が今晩現れる。 歌舞伎町のキャバクラ、「anego」にリムジンでやって来るハズだ」
……anegoか。
俺は、じじいに礼を言って、その場から離れた。
夜、歌舞伎町は怪しい光を帯びる。
それにつられるかの如く、ここには色んな人間が集まってくる。
俺は、路地裏に身を隠して、リムジンが現れるのを待った。
「……はぁっ」
時刻は夜の9時。
吐く息は白い。
(カイロでも買ってくるか)
そう思って、地べたから立ち上がったその時、見知らぬおっさんがやって来た。
「お前、そんな所で何をしてる。 怪しいな」
「何だよ、アンタ」
酔っぱらいか?
今、忙しいんだけどな。
「私は自警団の者だ。 この近辺は引ったくり被害が多いからな」
……げっ。
俺のいない間に、そんな奴らが現れるようになったのか。
何故か、警察でもない奴の職質を受けてる最中、俺は目の端である物を捉えた。
黒い胴長の車。
リムジンだ。
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