第19話
その翌日から、俺は弁当屋の仕事を手伝うことになった。
弁当屋の弁当は、工場でおばちゃんとかが作ったやつで、それを車に乗せて現場に向かう。
用意する弁当の数は、ざっと300食。
前にも言った通り、半分がハンバーグ弁当で、半分が魚弁当。
それを積み込み、車を走らせ、昼になる1時間前には届けるなきゃならない。
現場の駐車場に車で乗り入れ、台車を下ろしてそこに弁当を乗せる。
この前みたく、ぼーっとしてると段差で転倒しかねない。
俺は、慎重に台車を動かしてプレハブ小屋の方まで移動した。
昼になると色んな職人がやって来て、どんどん弁当が無くなっていく。
2時過ぎには完売して、片付けの準備に入る。
「ねぇ、明日も手伝ってくれるの?」
「……」
突然、声をかけられ、曖昧に返事をした。
話しかけてきた相手は、バイトの女の子だ。
黒髪ロングの、地味目な女子。
年は多分、俺と同じくらい。
高校生とか、か?
「来て良いなら、毎日でも……」
「それ、凄い助かるんだけど。 ウチの人にも言っておくから。 スマホ、持ってる?」
「……」
俺は、今時珍しい、折りたたみの携帯を取り出し、相手に番号を教えた。
「君、スマホ持ってないんだ」
「ネットとか、使わねーし…… 友達もいねーから」
「……あたしと同じか」
折りたたみ携帯を取り出し、番号を入力する。
……何だよ。
こいつも折りたたみ式かよ。
俺は、ただ黙々と弁当屋で働く日々を過ごしていた。
よく一緒になるバイトの女の子。
名前は吉永良子。
年は17で、俺の一個下。
順調にいってれば高校3年で、今年受験だったらしい。
「高2で不登校になっちゃってさ……」
「……」
急に朝起きれなくなって、気づいたら不登校になっていた、とのことだ。
原因は分からないけど、学校に行けなくなってしまう。
良くある話、なのか?
俺は、これからどーするんだよ、とは聞けなかった。
自分だって、お先真っ暗だ。
「何か、生きててつまんねーよな」
俺は、ボソリと言った。
「毎日毎日、鉄板の上に焼かれてさ」
「あ、知ってる。 泳げたいやき君でしょ?」
いきなり歌い始めて、俺は少しおかしくなった。
こいつは、何でこんな明るいんだよ。
「歌、好きなのか?」
「うん、最近の流行とかより、昔の曲が好きかな」
ヨシコは、iPodを取り出して、俺にイヤホンを渡して来た。
「何だよ、米津玄師?」
「そーゆー流行は聞かないって」
耳から流れてきたのは、聞いたことの無い曲。
だけど、メロディが心地よかった。
涙の数だけ強くなれるよ
アスファルトに咲く花のように
見るもの全てにおびえないで
明日は来るよ、君のために
「いい曲でしょ?」
……どんな辛くても、いつか来て良かったと思える明日が来る。
こういう曲に励まされて、こいつも生きて来たのかも知れない。
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