第18話
頭の上に落ちてきたのは、封筒。
中を見ると、札束が入っていた。
戸塚サンが扉を開けると、俺と目が合い、一瞬困惑する。
「……」
「……あ、あの、いくら払えば」
「茶都さんは? 君は誰だ」
「俺、親戚です…… 金、預かってて」
その場で適当に嘘をつき、札束を見せる。
戸塚サンは、それを受け取ると言った。
「確かに15万。 でも次滞納したら、追い出すからね」
「……はい」
大家がいなくなると、ふうっ、と息を吐く。
15万ってことは、5ヶ月も滞納してたのかよ。
つか、今の俺の今月の給料じゃね!?
難を逃れることはできたけど……
それでも、明日からどーすりゃいんだよ。
考える間もなく、今度は机の上の携帯がバイブする。
「次は何だよ……」
携帯の画面には、徳田さん、という文字。
鳶の親方だ。
俺は、携帯を取った。
次の日は、猛烈に起きるのがしんどかった。
このまま眠っていたい。
そう思ったけど、どうにか起き上がり、鳶の格好になると、家を出た。
昨日、新しい現場の話を徳田さんからされ、出勤できるかを聞かれた。
俺は、おっさんが事故で亡くなったことを説明。
それでも、俺だけでも現場に出たいと言った。
働かないと生きていけねーし。
電車を乗り継いで、現場へと向かう。
少し遅れて、メンバーと合流。
「あ、すいません、遅れて……」
「もう朝礼終わってっから、早く準備しとけ」
どんな事情があっても、遅刻は遅刻。
周りのピリピリした空気を感じつつも、俺は仕事に加わった。
だけどその日、事件が起きた。
組み上げた足場が、崩れちまった。
「おいっ、大丈夫かっ!」
みんな、慌ててその場に駆けつける。
俺は、はっとした。
その足場は、俺が組み上げた足場で、接続部を締め込むのを忘れていた。
「馬鹿野郎っ!」
親方に大目玉を食らい、そんな浮き足立ってるなら、現場に入るなと言われた。
「……」
確かに、集中してなかった。
でも、そんなそばから事故が起きるなんて……
結局、俺だけ昼に引き上げることになった。
肩を落としていると、鳶仲間の一人が声を掛けてきた。
「なあ、気にすんなって。 怪我人はいなかったんだし、セイヤさんのこともあったんだ。 他に仕事がないか聞いてみるから、夕方まで待ってろよ」
「……ありがとうございます」
夕方、プレハブで椅子に座って待っていると、鳶のあんちゃんがやって来た。
「よっ、待ってたか」
「何か、見つかりました?」
重たい腰道具を外しながら、あんちゃんが言った。
「ああ、弁当屋の人手が足りないんだとさ。 今まで働いてた人が辞めちゃって、欠員募集中だ。 やってみっか?」
弁当屋のバイト。
他に仕事がないなら、それしかないか。
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