第17話
「間に合いそーだな」
車から降りたのが少し早かったか。
まだちょっと距離があるが、大丈夫そうだ。
「俺を置いてくんじゃねーっ」
おっさんがいなくなったら、俺はまた路上生活に逆戻りだ。
それに、今更また一人で生きてくのは辛い。
まさか、自分の中でこんなおっさんが大事な存在になってるとは、驚きだ。
飼い犬か? 俺は。
会ったら何て言ってやろうか。
「はあっ、はあっ……」
もう少しだ!
後、3メートル、2メートル、1……
ロケットに辿り着こうとした、その時だった。
猛烈な熱風が、ロケットの噴射口から噴き出した。
「ぶわあっ」
とてつもない熱風。
近づくことができない。
それどころか、ここにいたら体が溶ける。
「おっさ…… ぶわっ」
風圧に負けて、俺の体は後方に吹っ飛ばされた。
「嘘だろ…… おいっ!」
タッチの差で、間に合わなかったのか。
轟音で俺の叫びはかき消された。
銀色のロケットは、そのまま上空へと飛び上がり、白い尾を引いた。
青いキャンパスに、一筋の線。
そして数秒後、派手に砕けた。
「おっさああアアアーーーーーん」
その後、俺は警察官に洗いざらい説明した。
爆弾は、実はロケットだったこと。
そのロケットは、絶対に飛ばないロケットで、そこにおっさんが乗り込んでいたこと。
俺は、おっさんを止める為に、警察官を利用しようとしたこと。
家に送り届けられると、警察官は言った。
「力になれなくてごめんな。 俺は、ロケットの破片がどうなったか調べないといけないから」
「……分かりました」
警察官はそのまま、家を後にした。
俺は、部屋の中で布団にくるまった。
「……」
何も言わずに出て行くのは、あんまりだ。
おっさんにとって俺は所詮、労働力でしか無かったのか。
怒りが沸き起こる。
ふざけんなっ……
だけど、すぐに不安になる。
俺はこの先、どうしたらいいんだ?
俺はこの生活を続けるつもりだった。
口ではおっさんのことを、「臭ぇ」とか、「いびきがうるせぇ」とか言ってたが、そんなの照れ隠しだ。
本当は、出て行く気なんてさらさら無かった。
「ずずっ……」
鼻をすする。
今まで野良猫だったけど、捨て猫の気持ちを味わうのは始めてだ。
目から涙がこぼれる。
「何だよ……」
突然、チャイムが鳴った。
「あのぉ……」
……誰だ?
聞き慣れない男の声。
こんな時間に、一体……
「茶都さん、いますか? 大家の戸塚です」
俺は、布団から出て、扉へと向かった。
ドアノブに手を掛けようとすると、
「部屋にいんなら、出てきやがれっ!」
いきなりの怒声に、俺は尻もちをついた。
「何カ月家賃滞納したら気が済むんだ! 今から中に入るぞっ」
ガチャガチャと音がする。
鍵を取り出して、差し込んだっぽい。
まさか、おっさんの野郎、ずっと家賃を滞納してたのか。
戸塚サン、めちゃくちゃキレてんじゃねーか……
「こっ、殺さ……」
その場から後ずさりすると、冷蔵庫が背中に当たり、頭の上に何かが落ちてきた。
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