第16話

俺は、家から飛び出した。


だが、そこで足が止まる。




「クソッ、どこだ……」




 いつも、キャンプ地へは車で向かっていた。


だから、家からどこを通って向かうのかが分からない。


だけど、グズグズしてる暇は無い。


あんな装甲ボロボロのロケットなんか、絶対に飛ばねーハズだ。


おっさんが10年かけて作ったロケットだって、それが原因で空中分解したんだ。




「セイヤのおっさん、死ぬ気かよっ……」




 乗り込めば、間違い無く命は無い。


それとも、分かっていてそれをやるのか?


俺は、混乱したまま道路へと出た。


確か、こっちだったか?


勘で走り始める。


キャンプ地へは車で30分程度。


このままじゃ、間に合わない。




「はあっ、はあっ……」




 その時、目の前に交番があることに気づいた。


一か八か、交渉してパトカーに乗り込めれば……


俺は、考えがまとまらない状態で、中へと入った。


暇そうな警察官が一人、机に肘を立てて、欠伸をしていると、




「おっ、おまわりさん!」




 俺は、息を弾ませつつ、言った。




「ぜぇ、ぜぇ…… パ、パトカー出して下さいっ」




「ちょ、落ち着いて。 何があったんですか?」




 何があったって…… 


俺は息を整えながら、考えた。


誰かが襲われてるとか、緊急を要する事態じゃなきゃ、こいつら動いてくれそうもない。




「……」




 俺は、チラと相手の腰にある物に目が付いた。


拳銃だ。


あれを奪って、脅して車を運転させるか?


馬鹿やろ、捕まるっつの。


だったら……




「……爆弾を作ってるヤツが、昔、キャンプ地だった森の中にいるんす」




「爆弾!?」




 文字通りの爆弾発言に、警察官の表情が凍り付く。




「今なら、まだ間に合います。 爆弾が完成する前に、止めに行かないと……」




「ちょ、急に言われてもな…… そこにいて」




 警察官は受話器を手にして、どこかに連絡を取る。




「はい、爆弾犯がいるとの通報がありまして…… はい、先に現場に急行します」




 ガチャン、と電話を切って、机の引き出しから車のキーを取り出す。




「で、住所とかは?」




「あ、場所、分からないんすけど……」




 ざっくりとした情報を伝えると、警察官はノートパソコンの電源を起動させて、ネットから検索をかける。




「……ここか?」




 この近辺で、閉鎖されたキャンプ地は一件のみ。


ノラネコ・ビレッジと呼ばれるキャンプ地だった。
















 サイレンをけたたましく鳴らし、赤信号を突破しながら、現場へと向かう。




「こっちで合ってるか?」




「……はい、この先す」




 これなら、間に合うか。


俺が病院に向かう直前まで、おっさんは家にいた。


軽トラの荷台には電線が乗ったままだったし、配線作業が残っていれば、すぐには発射できないだろう。


 木々を縫うように進み、開けた場所へとやって来た。


円錐型のロケットは、まだそこにある。


軽トラもだ。


俺は叫んだ。




「止めてくれっ!」




「……!」




 シートベルトを外して、扉を開ける。


走行中の車が急停車した。




「おい、馬鹿……」




 警察官にキレられるより早く車から飛び降り、


俺はロケットへと走り出した。

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