第13話
「はあっ、はあっ……」
勝った……
「っしゃあああっ!」
俺は、勝利の雄叫びを上げた。
目の前には、デブとハゲが倒れている。
しかし、ピクリとも動かない相手を見て、若干、不安になった。
「……死んだか?」
「すげぇな」
すると、もう一人、ピンクの作業着のヤツが、背後から現れた。
(まだいやがったか)
俺は、シノを握り直した。
「わっ、待てよ、俺はやる気ねぇから!」
こいつ、前に見た顔だ。
プレハブで飯食ってた時にいたヤツ。
デブ、ハゲともう一人、何の特徴もないおっさん。
そのおっさんは、思いがけない言葉を口にした。
「スカッとしたぜ。 1回、ああいう目に合わないと分かんねーのさ、アイツらは」
「……仲間じゃないのか?」
「仕事仲間ではあるけどな…… まあ、何かあったら止めようと思ってたんだけど、大丈夫だったわ」
……本気で止める気あったのか?
口先だけにしか思えなかったけど、シノを持つ手を緩めて、その場から去ろうとした。
そのすれ違い様、男は聞き捨てならないセリフを口にした。
「お前の親父、日本に帰って来てるらしいぜ」
……!
こいつ、何で……
「お前が金魚掬って苗字なのを小耳に挟んで、はっとしたよ。 お前がぶちのめしたクロが、ヤクザに身柄を売ったリストの中に、金魚掬カイトってのがいたからな」
おっさんが言うには、俺の親父の金魚掬カイトは、ロシアに奴隷として売られていた。
鉄道の路線拡張工事の為に、来る日も来る日も山を削り取る作業をしていたが、多量の粉塵を吸い込んだことで、肺をダメにした。
そのせいで、復帰の見込みが無く、使えなくなった為、日本に強制送還されたらしい。
「お前の親父さんは都内の大学病院にいる。 ほとんど寝たきりらしいが……」
「……」
こいつが何でそこまで知ってるのかは不明だが、都内の大学病院に親父がいるとの事だ。
正直、今まで会いたいなんて思わなかったし、むしろ避けてきた。
「親父さん、重体で……」
「……知らねーよ」
俺は、男を振り切り、セイマのおっさんのトラックへと向かった。
おっさんはちゃっかり、大量の資材を荷台に積んで、家に持ち帰った。
「ほんと、抜け目ねーよな」
「あたりめーだろ、こんなチャンスねーんだからよ」
時刻は深夜1時。
その日は荷物には触れず、早朝、キャンプ場に持って行く、とおっさんは言った。
俺は、わりーけど一人で頼む、と返事した。
「用事か?」
「ああ……」
部屋に入ると、シャワーを浴びて一旦就寝。
翌朝、布団から這い出て、着替えを済ませると、都内の大学病院へと俺は向かった。
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