第12話

負けたくない。


こんなヤツに、ぜってぇ、負けてたまるか…… 


俺は、地面に転がるシノを掴んで、強く握った。




「っとに、生意気なクソガキだな。 ヒロ、バラしちまえっ」




 目の前のデブは、腰に差してた電工ナイフを抜くと、それで斬りつけてきた。


俺は、シノでそれを受け止め、弾く。




「……!」




「ぐっ」




 ぜってー、負けねぇ。


相手の斬りつけてくるナイフは、光が反射して暗闇でもよく見える。


加えて、俺の目は猫の目。


動体視力には自信がある。


ナイフを受け止め、シノの先端で相手の顔をぶん殴る。


相手の歯が砕ける。




「て、てめぇっ……」




 相手が怯んだ隙に、一発ぶちかまそうとした時、デブが腰道具のサックに手を突っ込んだ。


そして、何かを投げつけてきた。




「うっ」




 相手が投げつけてきたのは、リングスリーブだ。


電線と電線をつなぎ合わせるのに使う、小さいリングで、それを手のひら一杯に掴んで投げてきた。


俺は、ギリギリスライディングでそれをかわし、膝に思い切りシノを叩きつけた。




「ギャアアアアーーーッ」




 膝の骨が砕ける感触。


巨体が崩れた。




「てめぇっ」




 後ろに控えていたハゲが、ナイフを抜く。


しかし、デブのとは違う、黒い色のナイフだ。


切れ味のいい、黒刀ナイフってヤツか。


切っ先が見えない。




(やべっ)




 ブンブン振り回して、腕をかすめる。


血が床に飛び散る。




「逃がさねぇぞ、ここでぶっ殺してやる……」




 一瞬、後ろを見やる。


ダメだ、壁に阻まれ、逃げ場はない。




「何よそ見しとんじゃあああっ」




「……!」




 くっそ、一か八か、俺は後方の壁へと向かって走った。




「行き止まりだ馬鹿めっ」




 俺は、壁に足を掛けて、ジャンプした。


この足袋なら、グリップが効く。


俺は、そのまま宙返りしてハゲの背後に着地した。




「……消えっ」




「らあっ!」




 俺はシノを握り締め、全力でハゲの後頭部をぶん殴った。






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