第10話

電線が足らねんだよな」




「電線?」




 どうやら、ロケットの内部に配線しなきゃならないらしい。




「買えばいいじゃんか」




「資金は出来るだけ抑えねぇと。 ロケットエンジンに5000万必要だからな」




 おっさんの知り合いに、エンジンなどを取り扱っているエンジニアがいて、通常ウン十億かかるロケットエンジンを、5000万の超格安で提供してくれる話があるらしい。


だけど、安いとは言っても5000万だ。


おっさんの貯金がいくらあるか知らねーけど、簡単に貯まる額じゃない。




「じゃあ、どーすんだよ」




「明日で現場は終わりだ。 足場をバラしに行くまで、しばらく間がある。 明日、電気屋の資材類をごっそり頂いちまおう」




「……は?」




 急に何を言い出すかと思いきや、資材をごっそり頂く?


本気か?




「本気でやんのか?」




「トラックで現場に行って、夜、積めるだけ積み込んじまおう」




 夜現場にいるのは、プレハブ小屋の責任者連中位で、そいつらも終電には帰るだろう。


警備なんて、無いに等しい。


おっさんには良くしてもらってるし、少しくらい手伝ってやるか。
















 翌朝、昨日言った通り、トラックで現場へと向かう。


そして、昼間は普通に足場の設置、夕方の5時には作業が終わった。




「おつかれっしたー」




「っしたー」




 これで、しばらくこの現場に入ることはない。


鳶仲間が帰り、俺らもトラックへと戻る。


現場で働いてるヤツらは残業したがらないし、ほぼほぼ定時には上がっていく。


ハレナ組のヤツらもその時間にいなくなった。


それから仮眠を取り、深夜0時。


俺らは現場内へと再び足を踏み込んだ。


建物の1階に、コーンで区画された箇所があり、その中に電線や、工具が置かれている。




「全部持ってっちまおう」




 丸めて置かれた電線を肩に背負った瞬間だった。


ライトの明かりが俺ら2人を照らし出した。




「うっ」




 ライトを手にしているのは、ピンクの作業着。


この前のハゲだ。




「絶対来ると思ってたぜ。 いつまで経っても車で帰りやがらねぇ」 




「くそっ」




 おっさんが舌打ちする。


ハゲピンクの背後から、デブが現れる。




「ヒロ、やっちまえ!」




「おっさん、逃げろっ」




 おっさんはターゲットじゃない。


俺は腰道具に差してあったシノを抜いて、その場から逃げる。


案の定、デブは俺の方に向かって走って来た。

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