第9話
「お好きなものを選んで下さーい」
飯はこの現場に出入りしている弁当屋の弁当。
お好きなものっつっても、ハンバーグ弁当か魚弁当だ。
1つ500円の為、俺はおっさんから金を借りて魚弁当を買った。
「おっさん、ツケといてくれ」
「……たく、そんなことばっか覚えやがって」
プレハブ小屋の1階の空いてるテーブル席について、冷たい弁当を食べる。
他の鳶仲間は、毎回この弁当だよ、とか愚痴っていたが、俺的にはすげー好みの味だ。
今まで一切贅沢してこなかったし、文句言うヤツは食わなきゃいいと思う。
弁当を食い終わって、爪楊枝をくわえながら机に突っ伏していると、誰かから声をかけられた。
やたら高いハイトーンボイスだ。
「ビックリだぜ。 野良猫は昼間はこんな所で働いてやがった」
「……あ?」
横にいたのは、ピンクの作業着の男。
つるっぱげにひげ面。
後ろにも2人、同じ作業着の男。
一人はデブで一人はふつーの男。
こいつら、ハレナ組の……
「おい、寝てんじゃねぇ」
俺は、髪の毛を掴まれて無理やり起こされた。
「何すか」
「俺の顔に見覚えはねぇかよ?」
ひげ面のハゲ。
確かに、どっかで見たことあったような……
テレビかな?
「俺は歌舞伎町でてめぇから財布をパクられたんだよ。 忘れたとは言わせねぇっ」
男の怒鳴り声に、他の連中も起きる。
「何だよ、アンタら」
目を覚ました鳶仲間の一人が、立ち上がってハゲピンクに詰め寄る。
「おめぇには関係ねぇ」
「関係あんだよ、コイツ、俺らの仲間なんだ」
一触即発とはこういうことか。
ピンク3人、鳶3人がにらみ合っている。
すると、今朝の現場監督が騒ぎを聞きつけてやって来た。
「おいっ、何事だ!」
やっべ、とピンクが撤退していく。
ハゲが俺の方にガンをくれた後、ガララと扉を開けて出て行った。
「さっきのは何だったんだ?」
「……」
午後に入り、作業を再開。
午前中に作った骨組みの上に足場板を乗せていく。
下からおっさんが板を渡しながら、質問してきた。
俺は、小声でおっさんに言った。
「あいつ、前に俺が財布を盗んだヤツだったらしい」
「……そういうことか」
一瞬驚いたような顔をしたおっさんだったが、気にするな、と口にする。
「どうせ証拠がない。 しらばっくれてろ」
面倒なヤツに目を付けられたな、と内心思いつつも、その日は無事に作業を終えた。
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