第7話

「今日は仕事だ。 ここの家賃代も稼がねーといけねーからな」




 ……そっか。


聞いた話じゃ、おっさんは日雇いのバイトをして金を稼いでるっつってたな。




「じゃあ、俺は留守番か」




「何言ってんだ、行くぞ」




「……へ?」




 何故か、おっさんに連れられて俺まで職場に行く羽目になった。
















 まあ、考えてみりゃ、この家を出てくっつーことは、バイトでも何でもして、働かなきゃいけないってことだ。


でも、何でこんな建築現場で働かなきゃいけないんだ?




「お前、文字書けるよな?」




「……舐めんな」




 俺は今、プレハブ小屋みたいな所で、テーブルに向かって新規入場者教育なるものを受けている。


用紙に名前を書いて、持病はないか、とか、建築現場に入るのは初めてか、とかの質問にレ点で答えていく。


つか、それ以前に重大な問題がある。




(苗字が分かんねーんだよな……)




 金魚掬の金魚は書けるが、掬が書けない。


生年月日も曖昧だし。




「書けたか?」




「……っせーな、もうちょっとだよ」




 俺は、腕で用紙を隠して、やっべー、やっべーと呻いた。


テストの問題を解いてるみたいに、変な汗が出る。




(もう、適当でいいか)




 掬の字は諦めてカタカナにして、生年月日もデタラメ。


それでも、現場監督らしき人物は用紙を受理した。




「現場初めてですか。 高いとこは、大丈夫ですか?」




 監督(らしき人)に聞かれ、俺は頷く。


高いとこは得意中の得意だっつの。




「なら、今から道具類を渡しますので、着替えて外で待っていて下さい」




 監督は部屋の奥に向かい、先に作業着、後からヘルメット、腰道具一式を持ってきた。


ロッカールームが無いため、その場で着替えを済ませ、腰道具をはめる。


ズボンはだぼだぼだけど、足首がキュッと締まっている。


靴は足袋みたいに親指とそれ以外が分かれている。


セイヤのおっさんも似たような格好だ。


これって……




「似合ってるじゃねーか、鳶」




 やっぱりか。


外に出ると、俺と同じ格好の奴らが数人、円陣を組んで立っていた。

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