第5話

「ゴフッ、ゴフッ、夢、な」




「食ってから言えよ」




 おっさんの語り始めた夢。


それは、ロケットを作る、っつーものだった。


よくよく聞いてみると、このおっさん、何気にすげーヤツだった。


元々、大学のメンバーで立ち上げた会社で働いていたらしく、目的は日本初の民間有人ロケットを打ち上げること。


会社設立から10年。


色んな所から少しずつ金を調達して、ようやくロケットの打ち上げまでこぎ着けた。


しかし、幕切れは呆気ないものだったらしい。




「発射してから3秒で大破。 俺たちが10年かけて作ったのは、でかい打ち上げ花火だった」




 原因としては、資金不足。


ギリギリの予算で、外殻の素材をケチった為、亀裂が入って砕けたとのことだ。


そして、半壊したロケットは海へ。


残りはさっきの葛西臨海公園の広場に飛び散った。




(今のロケットはもっと酷い気もすっけど……)




「とにかく、会社は潰れた。 その時俺は35。 まだまだ再就職できる年齢だった」




 それから、大手メーカーに就職が決まり、妻と子を養うには十分な給料を貰いながら、働き始めた。




「……良かったじゃねーか」




 話のオチは、ちっとも面白くないものだった。


俺が欠伸をしかけると、おっさんが口を開いた。 




「話はまだだよ。 目的を失った俺の人生は、空っぽだった。 気づけば、アルコール依存、パチンコ依存になって、妻も子共もいなくなっちまった」




「マジか」




 話の急展開に、一瞬ビビったが、やっと面白くなってきた。




「んで、今に至る?」




「まだだ」




 それからおっさんは会社を辞めて、ある決意をしたらしい。


ロケットをもう一度、作る。


そこからは、毎日が輝いていた、とのことだ。




「目的も無く働くのは虚しいだけだよ」




「……」




 虚しい日々、か。


確かに、分からなくもない。


俺の今までの人生は、何かに怯える日々だった。


ガキの頃は父親に、今は飢えに。


その時は、ずっと死の恐怖に怯えなきゃならない。


寝たきりになって死を待つ老人と同じだ。


死んだらどうなるのか、俺は何で生まれてきたのか、頭ん中はそればっかりになる。




「……目的って、どうやって見つけりゃいんだよ?」




「来い」




 突然、おっさんはドアを開けた。




「うっ、寒い!」




 おっさんは、座席から降りると、手招きしてきた。




「……んだよ、一体」




 仕方なく、俺も車から降りる。


おっさんが荷台に上がり、俺もそれに習う。


ふと、空を見上げた。




「……す、すげぇっ!」




 俺の見上げた先には、満点の星空が瞬いていた。




「晴れててラッキーだったな」




 障害物が何一つ無い。


都会のビルとビルの隙間からじゃ、絶対に見れない光景だった。

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