第四百六十四話 三姉妹の絆編 その十二
次の日。
朝食を食べるやいなや荷物を手に、私は心美、江代と共に街へと向かう。
「ここが街ですか!」
「凄いはしゃぎ様だな」
「ふっ……そうだな」
まあ記憶喪失と言っていたし……初めて見たなら感動……しねえな。
「しねえよ普通」
「吾らが幼い頃でもここまで感動はせんかったな。吾があれだけはしゃいだのは初めて二人でコミケに行った時だな」
「アレは良かったな」
初めての夏コミは暑すぎて、初めての冬コミは寒すぎて死んだけど。
「鍛錬が足りぬのだよ鍛錬が」
「列並んでる途中にお前が漏らしそうになった思い出が今更蘇ったんだが」
「それを言うでない!」
「あの時お前が迷子になったら大変だからって事で、一緒に列から外れたけど並び直したらえぐい事になったなあ」
「ぐぬぬ……吾を悪人のように扱うとは……」
「いや悪人だろうが」
正直何時間も並んでトイレを理由に外れなきゃいけないとかマジ無理だ。
「お前にそれが分からないのが不思議過ぎる」
「人前で漏らすようでは、闇の騎士の名折れ……ぞ」
おねしょ癖が治らない時点で既に名折れだよ。
「高三からは直すぞ……」
あまり考えないようにしてたんだがな……まあ良いか。
「ふっ、進路で悩んでいるのか?」
「お前やめろ今その話」
読んでる人で同じ境遇の人いたらマズいだろ。
「取り敢えず私は東京の大学だな。先輩もそこ通うみたいだし」
因みに先輩は今引っ越しの準備をしているらしい。
遠距離にはなってしまうが、別れないようにせめて一ヶ月に一回は会いに行かねば。
「貴様があやつと会っている場面を一度も見ていないのだが」
そもそも先輩が十二月以来出てないからな。
一応会ってはいる。うん。一応な。
「最終章にして浮気説出して不安がっておるのか?」
「うるせえ。それ言うならお前の彼氏も出てねえだろ」
「わ……吾だってちゃんと会っておるぞ! 貴様と同じくらい愛情を注いでおる」
「あの出来た彼氏を前にするとお前の方がガキっぽく見えるのはどうしてだろうな」
こいつが厨二病だからか?
「そういう貴様も、彼氏に愛情を注がれるよう努力したらどうだ? そう不器用だから、貴様は尽くすだけになってしまうのだぞ」
「なんだと!?」
先輩の彼女なら召使いと同じ扱いでも問題ない筈!
「その内貴様は捨て置かれるな。それが嫌なら努力したまえ」
「ぐぬぬ……」
「仲が良いんですね、二人とも」
「あ?」「なぬ?」
振り向いた心美に言われて前を向く。
「それに似てる……」
「おい心美、冗談よせ。私がこんなヘンテコに似てるとか有り得ねえだろ」
「そうだぞ。吾はこやつのように貧相な身体つきはしておらん」
「いえ、そうじゃないんです。喧嘩出来るのは、仲が良い証拠なんですよ」
「ふっ……」
「いやいや」
まあ……江代ならそうなのか?
姉さんと仲良いだろと言われたら絶対認めねえけど。
「何で喧嘩してるのかは分かりませんが、二人ともとても楽しそうです」
「はあ……心美はもう少し空気を読んで欲しいぜ」
「ふっ、同感だ」
今のが楽しく見えるのは病気だ。
「ま、そんな事より早く行きましょ!」
心美は飛び跳ねながら先を急ぐ。
「先急いでるけどあいつ金ねえんだよな」
「ふっ、財布扱いしておいて置いていくとはな……」
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