第八十一話 童貞医を救え! その六


「そろそろだな」

「ああ。そろそろ出てくるはずだ」

 

 辺りを見回す。

 すると、内科の診察室から例の子が現れた。

 

「あの子だ」

「ほほう。写真で見るより可愛いじゃん」

「だろ」

「でもお前が告って成功しそうな確率も落ちたけどな」

「よ、余計な事言うなよ」

 

 いや、現実ってそんなもんよ?

 

「それによ、あいつに彼氏いたらお前どうすんの?」

「なっ……」

「私が頑張っても、あいつに彼氏がいたら全部おしまいなんだよ分かるか?」

「ネガティブな方向に持っていくのやめい!」

 

 持っていきたくなるわ。

 なんで私の恋路が成功してねえのに、テメエら恋がろくに分かってない奴らの面倒見なきゃいけないわけ?

 

「少なくとも淀子みたいな命令はしないから安心しろ」

「というかテメエら他力本願をやめろ」

「だが断る」

 

※※※

 

「あ、あの……」

「藍田先生、どうしたんですか?」

 

 よく考えたらおかしいよな、この光景。

 何か普通に連絡があるならまだしも、この男はデートに誘おうとしてるんだぜ?

 普通に不審者過ぎるだろ。

 

「確か、俺の妹が君の学校にいた筈なんだけど……」

 

 マジか。でもこれハッタリじゃないよな?

 バレたら色々マズそうだぞ……。

 

「ええ。桃代(ももよ)ちゃんの事ですよね?」

 

 ふぅ……どうやらいたらしい。

 

「桃代、実は君と遊びたいらしいから、よかったら今度、遊びに来てやってよ」

 

 良いぞ藍田。よくやった。

 姉さんとの関わりで、ほんの少しだけど成長出来たみたいだ。

 

「は、はい。桃代ちゃんがそういうなら、今度お宅に伺いますね!」

 

 中々こう答える奴も珍しいが、よくやったぞ藍田!

 

※※※

 

「やったじゃねえか」

「お、おう!」

 

 固く握手。

 

「ありがとう! これであの子と関われるよ!」

「今回の台詞、考えたのはお前だ。ここからはお前の手で、あいつを我が物にするんだ!」

「はい!」

 

 こいつ、五話の間に別人のように成長した。

 あの一章の時のような悲劇は、もう起こらないんだ。

 

「あ、因みになんだけど」

「なんだ?」

「別に今すぐ出来るわけじゃないし、今から俺とホテルに

「殺すぞ」

 

 訂正。こいつは何も成長してねえ。

 

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