第八十二話 藍田と江代


 俺の名前は、藍田白世。まだまだ新人の研修医。

 今日も今日とて寮の扉を開け、朝日を浴びながら階段に向かって歩く。

 寮を出てすぐの病院で、今日も楽しい一日が始まる。

 え? どこが楽しいって?

 

「藍田先生、おはようございます」

「おはようございます!」

 

 俺の病院に来てくれる患者たちが、こうして挨拶をしてくれる。

 それだけで、気分が高まるのさ。

 

「今日も頑張ります!」

 

 今日も、そんな変わらない日々が続く……筈だったんだ。

 

※※※

 

「ふっ……どうやら風邪を引いてしまったようだ……」

「あの、すみません」

「どうした?」

「ここ、外科なんですけど」

「貴様医者なのに何を言っておる。医者たる者、目の前にいる患者を放っておくべきではないはずだ!」

「だから内科行けって言ってんだろォッ!?」

 

 やべえよこいつ。

 風邪で頭もやられてんのか?

 

「まあそう言うな。外科医なら、吾にいくつか質問をしてみせい」

 

 しかもめんどくさい奴だな。

 

「質問って言ったって、何を聞けばいいんだよ」

「癌とかはどうだ?」

「無いの明らかだけど……まあ俺も暇だし良いや」

「ふっ」

「こほん。どこか痛みますか?」

「ふっ……痛いさ。右目の奥が」

「あー、それ別に問題ないっすね。普通の人、皆そうだよ」

「なんだと!? この世にも吾と同じく邪眼を有する者が沢山……」

 

 あ、やっぱりバカなのか。

 

「じゃあ次の質問。胸に痛みはありますか?」

「ふっ……痛いさ。敵軍に侵略されている我が国を思うと、吾は夜も

「それは精神科行け。またはカウンセリング受けて来い」

「まだだ、まだ終わらんよ」

 

 えー、めんどくさいなあ。

 ウェブの診断チェックで出て来た奴でも出してみるか。

 

「貴女は煙草を吸いますか?」

「煙草は吾の身体に毒故、吸わぬ」

「吸ってたらポリスメンに連行してたけどな」

「酒は?」

「飲まぬ」

「はいはい……良い子良い子」

「緑黄色野菜は嫌いか?」

 

 俺があんま好きじゃないけど。

 

「ふっ、好き嫌いはいかんよ。作者」

「あー、何か作者が重度の偏食って聞いたしな。とにかくお前は嫌いじゃない、と」

「塩辛いものが好き?」

「作者に似てあまり好きではない。薄味でも味が付いておればよい」

「ふむふむなるほど」

 

 やべえ、医者なのにこれ殆ど『はい』なんだけど。

 俺そろそろおっ死ぬんじゃねえか?

 

「魚より肉が好き?」

「ふっ……吾は肉を好む」

「初めてはいだな」

 

 分かるよ。俺も肉大好き。

 

「あまり運動をしていない?」

「ふっ、吾は動画配信者もしておるからな。赤の姫や貧乳の銃士のように、頻繁に外に出たりはせんよ」

 

 誰だよそいつら。

 

「肥満である……このおっぱいは肥満だな。間違いない」

「待て、貴様。吾のおっぱいを肥満と申したな?」

「だってリアルにこんな巨乳とか有り得

「ならば見よ」

「いや見せなくて良いから!」

 

※※※

 

「まあこんな所だな。癌じゃねえし、癌のリスクは極めて低い。さっさと帰れ」

「ふっ、中々楽しかった。また遊ぼうぞ」

「遊びだったの? ねえ、遊びだったの?」

 

 やれやれ、今日も変な奴の相手をさせられた。

 次の患者で休もう。

 

「ん? 藍田君、その子は……。ダメだろう藍田君、仕事をサボってこんな美人と」

「いや、俺はこいつに付き合ってただけ

「言い訳無用。これはお説教が必要だな」

「ゑ」

「ちょっと来なさい」

「どうしてだよぉお!!」

「あ、吾の持ちネタが……」

 

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