第七十二話 浅井初の取り調べな日常 番外編✝ 江代刑事の取り調べ

 

 吾の名は浅井江代。刑事……というのは仮の姿。

 本来の吾は、闇の軍勢を率いる騎士。

 今回は仮の姿で、捕まえた犯人を追い詰めねばならない。

 ふっ……しかし敵の心を掌握し、自白させるなど容易い事。見せてやろう、吾の実力を。

 

「お、随分カッコ可愛い刑事さんが相手なんだな。こりゃあ期待して良いのかな」

「先に言っておくが……貴様の想像しているようなことには絶対ならんぞ」

「えーじゃあおっぱいだけでも……」

「撃つぞ」

「すみません」

 

 なんだこいつは……。自宅から巨乳のいかがわしい本が見つかったと聞いてはいたが、まさかここまで要求してくるとは。

 

「頼みますよ~。俺、死ぬ前に女のおっぱいを揉みたかったんですよ~」

「他を当たれ馬鹿者!」

「君みたいな可愛い子が良いな~」

「くっ……本当に撃って良いか?」

「おっぱい揉んで死ぬなら! 喜んでェェェェェェッ!」

「……はあ」

「あれ、揉ませる気になったの?」

「流石にここで射殺したら、色々厄介な事態になりかねないのでな。しかしおっぱいは揉ませない」

「ふざけんなよッ!?」

「どちらがふざけているのだ? 一応言うが、強制わいせつで現行犯逮捕しても良いのだぞ」

「う、うう……」

「心配せずとも、貴様には吾以上の女が見つかる」

「三十年生きてきたけど、そんな女いなかった」

「なぬ!? 貴様魔術師か!?」

「ええ。俗に言うまじゅ

「どのような術が使えるッ!? 早く吾にも教えてくれんか!?」

「いや、本当に魔術は使えねえよ!?」

「前言撤回は認めんぞ。貴様は吾に対し、自分は魔術師だという事を肯定した。これを否定する事は、闇の騎士として絶対に許さん!」

「……綺麗だけどめんどくさい人に当たったなあ」

 

※※※

 

「問おうか。そろそろ自供する気になったか?」

「俺はおっぱい揉ませてくれるまで絶対自供しない」

「貴様そこまでして胸に拘る理由はなんだ?」

「三十年も童貞続けてたら……そうなるだろう」

「それは貴様だけだと思うぞ」

「とにかくゥゥゥゥゥ! 揉ませてくれェェェェェェッ!」

「だが断る」

「うわあああああああああああんッ!!」

「ええいやかましい! 胸は揉ませてやれんが、手料理を食わせてやる」

「え、手料理? 女の子の手料理!」

 

 ふっ、女性経験のない男を落とすなど容易いな。

 

「さあ。喰うが良い。貴様の為に腕によりをかけて作ったカツ丼だ」

「いただきまァァァすッ!」

「焦らずに食えよ」

「は、はいッ!」

「ふっ……」

「ああああ! 美味いィィィィッ! 女の子の手料理ってこんなに美味いんだなあ……」

「ふっ……やっと自供する気になったか?」

「じゃあおっぱい揉ませて」

「どうしてだよぉお!」

「だって揉まないって言ってないし」

「くっ……どうするべきか……」

 

 このまま殺すか? いや殺したら大事に。

 なら見せるか? いや、こんな男に自分の身体を見せるのは……。

 

「……おい貴様」

「な、なんでしょう?」

 

 家族の話でもしてやろう。テレビでは確かそうしていた筈だ。

 

「吾の母親の話をしてやろう。と言っても、家族のいない貴様に、この悲しみが理解出来るとは思えんが」

「……」

「吾の母は、吾が生まれた日……吾が闇の軍勢に加担しなくても良いように守ってくれていた」

「……は?」

「しかし、国においた家族を守る為に吾は闇の軍勢に加担した。あの時、母はかなり泣いていたな」

「いや、え? は?」

「敵である、もう一つの闇の国は……我々にとって憎むべき敵。しかし……吾は敵であろうと人の命など奪いたくない。人を一人倒す度、母が悲しむ顔が頭に浮かぶ。何故ここまで思うのだろう、吾はそう考えた。そして気付いた。その者にも、母がいるからだと」

「……いいからおっぱい揉ませろよ」

「人から何かを奪う。確かに、相手の気持ちなど考えなければ行うのは容易い。しかし自分だけでなく、相手の事を考えたら? 自分のした事は、悪かも知れないと思うのではないか?」

「良い事言ってるように聞こえるけど、最初の話が意味不」

「吾の経験を元に、貴様に告げよう。もう自白するんだ。これから牢で過ごす数年間は、貴様にとって過酷かも知れない。しかし、貴様に何かを教えてくれるかも知れない。だから

「良いから揉ませろ」

「どうしてだよぉお!」

 

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