第三十八話 姉さんの恋 その四
――良い? 指定した場所についたら、それに着替えて。
私は姉さんに言われた命令を思い出す。
昨日作戦を聞かされた時に嫌だと断ったが、そんな要求が通るわけが無かった。
「これ着るのか……」
まあ路上で脱げと言われているわけではないから良いが。
私は今、とんでもないものを着させられそうになっている。
赤いパーカー(姉さんの中学時代の私物。私のサイズピッタリ)、デニム。
ここまでは普通。しかし。
「誰だこんな危ないマスク用意した奴は」
某青年漫画を彷彿とさせるマスク。
私に人でも喰えというのか。
赤いカラコンを左眼に着け、ヘアカラーで髪を白く染め、マスクを着ける。
完全にその漫画の主人公である。
「この立ち位置とかも悪意あるし」
色々危ない香りを感じながらも、私はスカートのポケットからエアガンを取り出す。弾丸を発射可能にし、下を見る。
ターゲット――つまり姉さんの想い人が、他の部員を連れて仲良さそうに歩いていた。
「……うっ」
リア充を見ると発生する、特有の吐き気が私を襲う。
だが仕方ない。ここで吐いて帰ったら、間違いなく姉さんに挽肉にされて、明日の朝飯にされてしまう。
「はぁ……」
溜め息を吐いてから、私は飛び降りた。
彼らの眼前で着地し、マスクを着け、フードを被った状態で着地する。
「な、なんだお前!」
五人組の内一人が言う。
私は唯一隠されていない左眼を窄めて、用意された台詞を口にした。
「あらぁ~お兄さんたちぃ~、どこ行くのぉ~?」
「……」「……」
……。
「気持ち悪い」
うん、同感だよ。
でも悪いな。お前達にはここで倒れてもらう。
「おいこいつ!」
「悪いけどぉ~、お仲間さん達はここで、た・お・れ・て・も・ら・う・ゾ?」
一瞬で四人に発砲する。
四人は声を上げて気絶した。私にとって一般人を銃で倒すなど楽勝だ。
「最後はぁ~、貴方ねぇ~?」
「な……なんなんだ君はッ!」
ごめんな、姉さんのせいで。
「最近私ぃ~、飢えてるの~。君みたいなイケメン……美味しそう……」
口から唾液を出しながら、私は呟く。
「食べさせてェェェェェッ!!」
うわあああああああ気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いッ!!
「そこまでよ」
一つの声。同時に、痛み。
「うおあッ!」
今回は手加減ありだ。
姉さんもやっと、本気を出したようである。
「なぁに? 私おンなの子の肉ゥ、好きじゃないんだけどぉ?」
「気持ち悪い女ね」
お前が考えた台詞だろッ!?
「なんでこんなのがさ、こんなカッコいい子食べようとしてるわけ? この世界は、間違ってるわ」
お前の設定した台詞が間違ってんだよ気付け。
「へぇ~あなたぁ、そんな事言うのねぇ? 馬鹿そうに見えるのにぃ~」
「ん? 何か言ったかしら?」
「だぁからぁ、馬鹿そうって言ったのぉ~。あなたなんて、食べる気になれないわぁ~」
「ムカッ……」
「早くぅ、消え――うおァァァァァァッ!!」
本気のボディーブローが、私の意識を刈り取った。
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