第三十四話 気持ち悪い変化


「ん~っ……」

 

 いつも通りの朝。いつも通りの景色。

 何一つ変わったものはない。

 今日も学校に行き、バイトをして、そのまま帰って馬鹿共に付き合わされる。

 絶対にそれが変わる事はない。

 と、思っていたのだが……。

 

「おはよ、初」

 

 違和感しかないものが、何故か私の家にいた。

 

「おはよ、姉さん……。どうしたの?」

「何って、アンタ達が起きるの遅いからこうして起こしに来てあげたんじゃない」

 

 …………は?

 全然意味が理解出来ない。

 

「ほら、朝ごはん作ってあげたから下に

「……ん? もう一回言って?」

「だから朝ごはん作ってあげたから下に

「なんだってェェェェェェェェェ!?」

 

 いや、ちょっと待て。

 こいつ頭でも打ったか!?

 

「失礼ね」

「あ、でも心は読むのな……ってそうじゃなくてッ!!」

「何よ」

「おまっ……お前いつもの自分の行い見直して来いよ!」

 

 いつもならこんな事はない。

 私が姉さんを起こそうとして死にかけるのが私のいつもで、起こしに来た上に朝飯まで作る奴なんざ私の姉じゃない。

 

「病院に行くか?」

「行かないわよ。私学校行ってくるから」

「……」

 

 一体どうしちまったんだあいつ。

 

※※※

 

「おェェェェェェェェェェッ!!」

 

 この台詞の時点で、もうお分かりいただけただろう。

 確かに朝飯は作ってくれた。しかし、この味は……この味は……。

 

「あいつ……だしとしょうゆ間違えただけじゃなくて……、そばとところてん間違えやがったッ!!」

 

 あの味の事を細かく説明してやりたいものだが、生憎あれは思い出しただけでもう一度ゲロを吐けるレベルだ。

 あと他に何を間違えていたかは、もう考えたくない。

 

「……ううっ、朝から気持ち悪い」

 

 あの料理も気持ち悪いが、姉さんも気持ち悪い。

 

「ふっ、貧乳の銃士……分かったぞ。赤の姫は、赤の姫は禁忌『邪淫』を司りし戦士・色欲(ラスト)に

「はあ……学校行くか」

「なぁんでだよぉッ!!」

「うん、江代の藤原竜〇聞いたら落ち着いたわ。ありがとう」

 

※※※

 

 学校に着いたのは良いが、あいつは何をしてるんだろうか。

 他の連中にもあんな事やったら流石に……

 

「……うーん」

 

 姉さんの声。

 何か悩んでいるように聞こえるが。

 

「あら意外」

 

 ん?

 んん?

 

「いやよくみたらクソむかつく」

 

 だってあの姉さんだぞ!?

 脳筋アマだぞ!?

 あいつがこんな悩むとかあるわけねえだろォォォォ!?

 

「あいつの寿命、あと三十分で尽きてくれないかな」

 

 何度も言うが気持ち悪い。あの料理と同じくらい。

 確かに成長は認めるが、流石に一日であんなに変わったら流石に気持ち悪い。

 

「ぐへぇ……」

「うわぁ……」

 

 あいつが笑った。気持ち悪さ十倍である。

 

「本当どうしたってんだ?」

「あれ、初ちゃんどうしたの?」

 

 後ろから覗くようにやってきたのは和泉だ。

 

「お、和泉か……ちょっとな」

「淀子ちゃんの事?」

「おう。あいつ朝から変なんだ」

「淀子ちゃんが変なのはいつもの事だと思うけど」

 

 皆さん、これが普通の反応だ。

 私は慣れ過ぎてしまったが。

 

「いや和泉、確かに姉さんはいつも変――というか馬鹿で乱暴で料理下手な奴だが、あんな風に物事を深く考える事なんてねえだろ?」

「そ、そうだね」

「しかもあいつの事だ……笑ったって事は……」

 

 まさかあいつ、何かに目覚めたのか……?

 ついに人類でも滅亡させようと言うのか?

 

「がくがくぶるぶる」

「それ口に出して言うの? 初ちゃんも変だよ」

「いや、私はまともだと思うぞ?」

「それはないよ」

「肯定してくれよォォォォォォッ!!」

 

※※※

 

「はぁ……」

 

 極力普通に生きてきたつもりなのに、和泉に変人扱いされてしまった。

 何と言うか……もう……。

 

「駄目だ……家に帰ったら姉さんをボッコボコのケッチョンケッチョンのマヨネーズにしてやるぅッ!!」

 

 夢の中で!

 

「本当はリアルでやりてえけどなあ……バイト行こ」

 

 先輩の顔見れば元気になれる筈だ。

 自転車に乗り、校門を出て、右へ……しかし。

 

「あれ、姉さん?」

「……」

 

 やべえ、超気になる。

 向かい側の男子校の校門をずっと眺めて、何を考えているのだろうか。

 

「まさかこいつ……」

 

 金持ってそうな奴を脅して、カツアゲするつもりだな!?

 いやダメだろ! こんな学校に近い所で!

 風紀委員に見つかったら私が怒られるッ!

 

「……あ」

 

 小さな声を漏らす。

 瞬間、姉さんの顔が赤くなった。姉さんの目の前では、サッカーボールを手に持つイケメンが。

 顔は……うん。姉さんが好きな中島〇人に少し似ている。

 

「初、いるわね」

「うん」

「私、恋したかも」

「知ってた」

「何で分かったのよ」

「何で分からないと思ったんだよ」

 

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