第三十三話 青の美剣士


「初、一緒に来てもらわよ」

「あのさ、私今日バイ

「きぃてぇもぉらぁうぅわーよ?」

「……へい」

 

 折角の休日が。折角のバイトが。

 この姉のせいで――この姉のせいで。

 

「ふざけんじゃねェェェェェェェェェェェェッ!!」

「静かにしなさい」

「お前本当毎度毎度いい加減にしろよ!? しかも今日に至ってはバイトなのに! 今回はどんな無駄に付き合わせる気だ!?」

「無駄って何よ。無駄な事なんて一つもないわ」

「じゃあ言ってみろよ。てめえはこの路地裏で何をしようってんだ!?」

「ん、だからこういう事よ」

「すみません許してください命だけはァァァァァァァァァッ!!」

「はいどーん♪」

「結局今日もカツアゲじゃねえかッ!! 私呼ぶ意味ねえだろッ!?」

「あるわよ。前の話を思い出しなさい」

「は?」

 

 冷静になって前の話を思い出す。

 

「あー。お前が飢え死にしそうになった話?」

「違うわよッ!」

「じゃあなんだよ?」

「木刀の少年を私は許さないわ……正義感だかなんだか知らないけど、そんなんで私のカツアゲが邪魔されて良いわけがない」

「怖えよッ!」

 

 それなら、勝手に行って勝手に死んでくれ頼む。

 

「アンタにはスナイパーをやってもらうわ。あの時は私が油断してたけど、今回は負けるつもりないから。ケータイ繋げとくから、準備始めといて」

「人使い荒いなあ……」

 

 姉さんからの着信にOKを押し、姉さんからライフルを受け取ってから階段を上る。

 いや、ちょっと待て。あれは私のライフルだ。

 あいつまさか勝手に取ってきたな?

 

『悪い?』

「いやお前どこまで心読めんの!?」

 

 もうエスパーで良いなこいつ。

 

「あ、着いたみたいだな」

 

 扉を開け、鉄格子に近い位置に移動し、ライフルを構える。そのままスコープ越しに、姉さんを見た。

 

「姉さん、取り敢えず準備終わったぞ。まだ来てないのか?」

『すぐ近くにいそうね。あの時と同じ気を感じる』

 

 ド〇ゴンボールキャラのような発言。しかし嘘ではなく本当なのだから、この姉さんは恐ろしい。

 

『今来たわ、準備して』

 

 言われた通り、私は集中してスコープを凝視する。

 スコープ越しの下では、姉さんが関節の音を立てながら待ち構えている。

 待っていると、姉さんの言っていた人物が姿を現した。

 黒髪青目の女顔に、るろうに〇心を彷彿とさせるデザインの和服。色は青いが。腰に青い柄の木刀を差した美少年。

 見ているだけで、こいつがモブじゃないとすぐに分かる。

 

『やっと会えたわね。今日こそ勝たせてもらうわよ』

『懲りていないようだな。僕に負けたのに、随分と自信があるようだ』

『不意打ちで勝ったくらいで調子に乗らない方が良いわよ』

 

 いや今回お前が不意打ちで勝とうとしてんじゃねえか。

 

『正面から向き合えば、勝てるとでも?』

『当然よ』

 

 とても不正をしようとしている奴の顔じゃないのが怖い。

 

『覚悟は良いな?』

『ええ。此方も遠慮なくやるわよ』

 

 こんな時、私はどんな顔で二人の戦いを見届ければ良いのだろうか。

 誰か教えてくれ。

 

『シッ……』

 

 その時スコープの先で、とんでもない事が起こった。

 二人が、消えたのだ。

 いや、まあ姉さんは分かるぞ? あんな超人的身体能力を持つのは姉さんくらいだし。

 しかし、しかしだなあ。

 何であいつも一緒に消えてんだよォォォォ!?

 

『おりゃああああああああ!!』

 

 再び、今度は空中にて姿を現した姉さんと男。

 姉さんは拳、男は木刀を振り続ける。

 凄い事に、今回は両者とも攻撃が当たっていない。

 まさかCGやワイヤー無しでこんなバトルを見られるなんて、思ってもいなかった。

 

『ぐっ……』

 

 呻き声が聞こえた後、スコープをずらす。

 姉さんだ。姉さんが、木刀を右腕で受け止めながら、歯を食いしばっている。

 あんな姉さんを見るのは生まれて初めてだ。

 

『りゃあ!』

 

 負けじと姉さんも反撃する。

 姉さんの左脚が、男の脇腹に叩きつけられた。

 

『今よ!』

 

 唐突過ぎるわ!

 そう言いつつも、私は男を狙撃した。

 悪い事はしたが、これで姉さんの勝ち。そのまま帰ろうと考えたが、

 

「ええええええええええええッ!!」

 

 あの男……弾丸を木刀で防いだのだ。しかも体勢を簡単に変えて。

 

『はぁ……はぁ……』

 

 息切れすんなよおいッ!!

 

『君がこんな手を使う事は、もう予測出来ていた』

『な……何よ。それで勝ったつもり?』

『もう君は僕に勝てない。それはもう君にも分かる筈だ』

『へっ……分からないわよ! 私はアンタに! 勝つんだあああああああああッ!!』

 

 消えるような速度で、姉さんは飛び出す。

 対して男は、柄に手を添えたまま。

 

『うおおおおおおおおッ!!』

 

 姉さんの拳の圧で、周りのものが少し吹き飛ぶのも気にせず。

 男はただ冷静に待つのみ。

 やがて男のこめかみに、拳が叩きつけられようとしていた。

 しかし。

 

『甘い』

『うっ……』

 

 男の抜刀術は、そんな姉さんに決定的なダメージを与えた。

 

「か、かっこいい……」

 

 思わず、そんな言葉が口から零れる。

 姉さんを倒せるのはこいつしかいない。

 こいつとは仲良くなった方が良い。

 行かなくてはいけない。

 

「うわあっ!」

「いやバナナで転ぶのかよッ!!」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る