第三十話 超会議に行こう その四


『4545番の方~!』

「はいはいはあああああああああああいッ!!」

 

 手を挙げて声高に返事をする私。

 さて、この時がやってきた。私の歌唱力で会場中の奴らを驚かせてやろう。

 

「それでは此方です~」

「ふふふ~ん♪」

 

 鼻歌で練習練習。

 楽しみだな。

 

「これで選曲が出来ますので、自分の出番までお待ちください」

「分かりました」

 

 と答えるや否や、私は電光石火の勢いで選曲する。

 すぐにキョクナビを隣に渡し、深呼吸。自分の出番が待ち遠して吐きそうだ。

 我慢だ我慢。もう次が私の番だ。

 

「では4545番の方!」

「来たぜ」

 

 良いBGMだな。カッコいい。

 そのままステージに上がり、両手を振り。

 アイドル気分でこう言った。

 

「皆盛り上がって行こおおおおうううううッ!!」

「うえええええええええええい!!」

 

 叫び声の後、前奏が終わり。いよいよ私の歌が始まる。

 

「うおおあああッ!

 

 数分後。

 

「あれ、なんでだ?」

「も、もうダメ……じぬぅ……」

「かはっ……」

「いや吐血してる奴いるぞ!」

 

 ちょっと待て! 何で皆こんなに……。

 

「なんで……私一生懸命歌ったよな?」

 

 しかもこれ私のせいだとしたらおかしいだろ!?

 普通こういう役割は淀子姉さんが請け負う筈だろ!?

 え……つまりあれか? 私は二十六話で馬鹿にしたあの連中と変わらねえって事か!?

 

「ふざけんじゃねえええええええええええええ!!」

 

※※※

 

「まったく……」

 

 どいつもこいつも……私をいじって楽しみやがって。

 音痴なのは仕方ないが、あれは大袈裟過ぎではないだろうか。

 私があの部活の連中ほど下手なわけがないだろう。それなら私はとっくにカラオケボックスの一つや二つ破壊している。

 

「そろそろ時間だっけか」

 

 江代が出演するステージはゲーム実況者による汝は裏切り者なりや?対決。人狼とは違う、新感覚のゲームなのだとか。

 

『間もなく、実況者による汝は裏切り者なりや?が始まります。出演者は……』

 

※※※

 

 会場につくと同時、スクリーンでゲームの説明が始まった。

 

『汝は裏切り者なりや?のルール。このゲームでは、プレイヤーは九人の一般プレイヤーと、一人の裏切り者プレイヤーに分かれ、様々な状況から推理して犯人を特定するパーティゲーム。しかし、これは人狼とは違います。人狼と違うのは、敵側の裏切り者はGM以外の誰にも分からないという点です』

 

 ゲームキットの発売当初は面白いのかと疑ったが、これが世間では中々面白いと評判だ。

 

『自分が敵かどうかも分からない、ハラハラドキドキのゲーム。それが汝は裏切り者なりや?です。まずプレイヤーには、二つの選択肢が与えられています。誰かと話す事と、誰かと戦う事……裏切り者の裁きを乗り切り、裏切り者が死んだ時点で生き残ったプレイヤーが勝利です!』

 

 そんな説明の後オープニングムービーが始まった。

 

『――これは、遠い未来の話』

 

 お、何か凄い話っぽい。

 

『22XX年。人間は人工的に人格を植え付ける装置を開発した。人道的な問題などもあったが、研究はどんどん加速し、遂に実験段階へと入ろうとしていた』

 

 ここで何かが始まるな。

 

『ところが、ある日……仮面を着けた謎の研究者が現れ、その研究室のメンバーは全員殺されてしまう。世界最凶の殺人鬼の人格データを持つ彼は、その装置を使ってある事をしようと考えた。そう、何人かを集めて殺し合いをさせようと……』

 

 ――汝は裏切り者なりや? 仮面の研究者

 

 そこでオープニング終了。中々良いシナリオだと思った。

 江代が何もしなければ、だが。

 まあ江代は出演者だ。何もしないと信じてやろう。

 

「お、今か」

 

 会場が騒がしくなる。

 そのまま江代を含む十人の参加者が、ステージ上に並んでいく。

 ステージ上の実況者たちが、右からマイクを使って観客に話していく。

 まず黒髪眼鏡の……豚沢さんだ。

 

「みんなああああああ!! 昼飯は喰ったかああああああ!?」

「おー!!」

「俺は食べてなあああああああいッ!!」

 

 妙にテンションが高いな、豚沢さん。

 次にカヨさん。

 

「うぃーすどうもカヨでぇーす!」

「カヨさああああああん!!」

 

 カヨさんは美人実況者として有名だ。

 圧倒的に男の声が多い。

 続いてPE―PEさん。

 

「PE―PEです! よろしくお願いします!」

「足気を付けろよおおおおおお!!」

 

 足はPE―PEさんの心臓とも言える。

 足をくじいた時、PE―PEさんは死ぬ。

 そのまま何人か紹介し、江代令嬢こと江代は最後だった。

 

「ふっ……今宵の王はこの吾だ……」

「……」「……」

 

 いやしーんとしたぞおい!!

 これで良いのかよ!?

 

「はい、それでは座って下さい」

「おねしょ、あ違う。江代、今回はお前に同情してやるよ」

 

 本当にあいつ一千万稼いでるのか……?

 

※※※

 

『それでは、役職の振り分けを発表します。このゲームでは、ただ単に一般プレイヤーの他に、裏切り者――つまり人狼の代わりのような人がいます。しかし裏切り者の正体を知るのは、これからスクリーンに出てくるGMと、もう一つ。協力者だけが知っています。今回一般プレイヤーの方には、その裏切り者が誰かを当て、戦うゲームをしてもらいます。そこで、振り分けですが、簡単に言います。一般プレイヤー八人、裏切り者一人、協力者一人です!』

 

 取り敢えず江代とカヨさん応援しておこう。

 

『ではこれからこのゲームの醍醐味である、戦闘について説明をしたいと思います。まずお手本として、江代令嬢さんとカヨさんにやっていただきましょう!』

 

 江代とカヨさんが立ち上がる。

 

『まず戦闘ですが、選んだプレイヤーと選ばれたプレイヤーとでじゃんけんをしてもらいます。プレイヤーは一ターンに一回これを行う事が出来ます。選ばれたプレイヤーはそれを拒否出来ません。ではお二方、じゃんけんをどうぞ』

 

 ん、あれ。待てよ?

 

「アルティメット・ヘル(さいしょはグーの意)」「さいしょはグー」

 

「サンダあああああああ!!」「じゃんけんほい!!」

 

 あいこだ。

 

「あいこでほい!! あいこでほい!! あいこでほい!!」

 

 数分後。

 

「あいこでほい!! あいこでほい!! あいこでほい!!」

 

『進まないから早くしてれェェェェェェェェッ!!』

 

 ま、まあ普通の人なら怒るかそりゃあ。

 

「仕方ない。カヨ、今回は勝ちを譲れ」

「いや待て待て。何でそうなった? そこ普通君が譲るとこじゃないの?」

「この世は吾が法であり、吾が正義よ……。所詮は人間……吾ら闇の騎士の言葉など理解出来る筈もないか……」

『この茶番いつまで続くんだ!? 早くゲームに入りたいんだが!?』

 

 豚沢さん怒ってるよ!! やめろ江代、落ち着けェェェェェ!!

 

「booooo!!」

 

 やめろ、ブーイングが巻き起こったぞ!!

 

『すみません、もうスクリーンで説明させてください……』

 

 ご苦労さまです豚沢さん。

 

※※※

 

『選択者が被選択者に勝った場合、被選択者は死亡し、ゲーム脱落。被選択者は勝った場合、防御か返り討ちを選ぶ事が出来ます。防御の場合、選択者は生存し、返り討ちの場合は選択者が死亡します』

 

 じゃんけんか……。江代がやったらあかんゲームだったわ。

 私達基本、じゃんけんはあいこが続く事で有名だしな。

 

『それでは、本ゲームの主催者……仮面の科学者に登場してもらいましょう!』

 

 確かこの仮面の科学者も、ゲーム実況者だった筈だが。誰なのだろうか。

 スクリーンに映像が映し出され、ボイスチェンジャーで加工された声が流れた。

 

『プレイヤーの皆さん、そしてこの超会議に来ている皆さん。こんにちは、仮面の科学者だ』

 

 いや、待て。こんな感じの顔どっかのゲームで見た事あるぞ。確かモノク……。

 

『先に言うが、私はあの某ス〇チュンの熊とは一切関係ないぞ』

 

 いや、関係あるとしか思えないんだが。

 

『これから君達には、殺し合いをしてもらう。楽しい楽しい……パーティーが始まるんだ』

 

 お、段々それっぽくなってきたぞ。

 

『それでは、宴を始めよう!!』

 

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