第15話 工場

「料金は284リンドルです」


「ちょっと待った。220リンドルだろ、ぼったくるな」


 画面に表示されている金額を確認したマイクがツッコミを入れた。料金を渡して受け取りつつ2人で笑っていたが、ルイスは真面目な顔になってこう問うた。


紡績工場収容所に何をしに行くの?」


「決まってるだろ。紡績工場ここを壊して、従業員を救いに行くのさ」


 2人で外に出る。左手を見ると、紡績工場は、10年経った今でも存在している。多少建物は古くなったものの、今も働いている――辛い思いや苦しい思いをして生きている人がたくさんいるのだ。


 自信がありそうなその口調に、ルイスは顔を曇らせた。


「マイクのことだから、失敗することはないって信じてるけど。でも、それでいいのかなって思ったんだ」


「どういうことだ?」


 今度はマイクが顔を曇らせる番だった。


「どう言えばいいのかわからないけど――監視員も、工場長も、あんなことがしたくて実行してるわけじゃないと思うんだ。歯車がどこかで狂っちゃって、結果として従業員を苦しめているんじゃないかなって。でも、辛い思いや苦しい思いをしてるのは皆同じで、監視員も、工場長も、辛い中、苦しい中で生きているのかもしれないと思って。だから、僕らが救うのは従業員と監視員と工場長――この紡績工場にいる人や一度でも関わったことがある人全員なんだよ」


 そう言い切ったルイスを見て、マイクは爽やな笑顔を見せた。


「……成長したな、ルイス。たしかにその通りだ。俺が間違ってた」


「僕も少しは成長しました」


 褒められたルイスは少年のようにはにかんだ。


「さて。……夢を叶えた者タクシードライバーとは、ここでお別れかな」


「待って」


 ルイスは勢いよくドアを開けて、被っていた帽子を座席に置いた。だが、マイクはルイスの声が聞こえていなかったかのように無視して、爽やかな笑顔でこう言った。


「じゃあな。――これからも夢を描き続けろよ。夢はひとつじゃないから」


「――待って。僕も行きたい。――僕も皆を救いに行く」


 くるりと背を向けたマイクに、ルイスははっきりとそう告げた。歩き出そうとして出したマイクの右足が止まった。


「いいのか。これから俺は、紡績工場嫌な場所に行くんだぞ。ルイスは今、自分が生きたいと願った場所で生きているのだから、行く必要はないはずだ」


 背を向けたまま、冷たい声でマイクはそう問うた。

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