第13話 孤独
「そういえば、ロープって持ってるの?」
「ここにあるんだよ。気付かなかったか?」
爽やかな笑顔でマイクは正門の下の方に括り付けてあったロープをほどいた。
「こんなところにあったんだ。ここだったら監視員も気が付かなそう」
「ピーターが置いてってくれたんだよ。“救ってやれなくてごめんな”っていう言葉と一緒に。……やっぱピーターは悪い人じゃないんだな」
マイクの呟きにルイスはぶんっと縦に首を振った。
「これでよし、と」
彼らは、さも正門から抜け出したかのように門の上の方にロープをきつく括り付け、こちらに向かって垂らした。
そして、2人同時に目を合わせ、満面の笑みを浮かべて拳を突き合わせた。
「ねぇ、マイク。僕らは自由に生きるために生きている。決して土に還るためなんかじゃない。そうでしょ?」
「そうさ。俺らは自由に生きるために生きているんだ。俺らには生きたいように生きる権利がある。夢を描く権利も叶える権利もある」
自信を持ったルイスの問いにマイクは爽やかな笑顔で復唱した。
しかし、直後に人を突き放すような冷たい声でこう告げた。
「ただ――夢を描くことは、孤独になることでもある。それを覚えておけ」
目を見開いたルイスの口が開く前に、マイクは身を
「えっ……マイ、ク……?」
ルイスは正門の前で独り呆然と立ち尽くした。マイクを追うことも、自分を見捨てた彼を大声で非難することも出来なかったのだ。
2人で全力疾走して笑い合ったことも。
夢を語り、応援してもらったことも。
目に光があると言われたことも。
東門を協力して破壊したことも。
マイクが自分を見失いそうになったことも。
マイクに子供っぽいところがあると知ったことも。
狭い土管を苦労しつつ通ったことも。
従業員全員が心から笑顔になって欲しいと思ったことも。
マイクを信じ、約束したことも。
未来への扉を自分自身の手でこじ開けたいと言ったことも。
――マイクと出会ったことさえも。
全てを否定され、なかったことにされた、そんな気がした。
どれくらいの時が経ったのだろう。
星空は黒雲に覆われ闇空と化した。ぱらぱらと雨が降り始め、冷たい水がルイスを濡らしていった。ルイスからすればその方が都合が良かった。視界を濁らせる温かい涙を雨なのだと脳に思い込ませることができるから。
ルイスの目から零れ落ちた温かい雫が、足元の冷たい水溜まりに落ちた。その雫は、水溜まりに交わって、溶けた。
彼は、声を殺して、ただ握り締めた掌に爪をくい込ませた。
温かい雨も冷たい雨も、しばらくは止みそうになかった。
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