第12話 青春

 背中から伝わる硬い木の感触。酔いが回った監視員達の、音程が外れた歌声。たくさんのご馳走と、アルコールが混ざったような嫌な臭い。そして、それらに不釣り合いな数え切れない星。


「あの中に、僕の実の両親もいるのかな」


 マイクは何か言おうとして口を開いた。だが、それは小さな、でも彼らが待ちわびていた音に遮られた。


 ボゴンッというコルクが抜けたような音。それは、門が外れた音だった。


「脱出ルート確保完了」


「よっしゃ」


 普段よりもわくわくしたマイクの声に、ルイスは反射的に小さく飛び跳ねた。


「喜ぶのはまだ早いけどな。俺達の脱出劇はこれからだ」


「そう言うマイクは僕より喜んでそうだよ?」


「まあな」


 そう言って見慣れた爽やかな笑顔を返し、“お先にどうぞ”というジェスチャーを送る。ルイスは会釈して壊れた門を抜けた。


「次は正門に行くんだよね?」


「あぁ。こっちだ」


 マイクは右を指差して歩き出した。




「気を抜いちゃいけないのは分かってるけどさ、疲れたね」


「俺も。緊張してたからだろうな。警戒心が薄れてるんだきっと」


 しばらくして、彼らは歩くスピードを緩めた。そして、2人で目を合わせて同時に頷き、空を仰いで、全速力で地面を蹴った。


 走りたくて走ったのではなく、体が勝手に動いたのだ。




「はぁ、はぁ、はぁ……」


「疲れたな…」


 正門の前に着いた彼らは、乱れた息を整えていた。


「疲れたって言った直後に走らないでよ…。楽しかったけど」


「先に走り出したのはルイスだろ?」


 文句を言い合って、ふぅっと溜め息をついて、同時に笑い出す。


「さっきからなんでも同時だね」


「俺達が意思疎通してるってことだ」


 彼らは笑顔でそう言って、なにが面白いのかわからなくなるまで笑った。今まで彼らはどれほど辛い人生を歩んできたのか、先程まで彼らは何に束縛されていたのかを忘れてしまうほど、楽しい時間だった。彼らの中にあるストレスや負の感情が全て消え去った、そんな気がしたのだ。いや、気がしたのではない。事実として、今まで彼らが溜め込んでいたストレスや負の感情は消滅したのである。

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