第11話 夢
「将来の夢、か……。ないわけじゃないよ」
ルイスは呟くようにして言った。マイクは一瞬、柵に預けていた体を離した。
「聞かせてくれるか?」
「うん。僕の夢は、タクシードライバーになることなんだ。両親が生きていた頃から車が好きで。交通事故に遭った時もこれ持ってて」
ルイスは作業着のズボンの左ポケットから所々塗料が剥げている赤いミニカーを取り出し、マイクに手渡した。
「形見……ってことか?」
マイクは自分の手の中に収められたミニカーを見て訊いた。
「まぁそんなところかな」
「ありがと。車が好きだから、タクシードライバーになるのか?」
マイクはルイスにミニカーを返して質問を重ねた。
「それもあるけど……。僕らは、紡績工場に閉じ込められて、自由に生きられなくて辛い思いをしてるでしょ。だから、たくさんの人を行きたい所に連れて行ってあげたいなって思って」
「そうか。きっと、その思いがルイスの生き残る勇気であり、光なんだよ」
自信に満ちた
「夢を描くことは罪なのかな? 紡績工場に来てまもない頃、監視員に訊いたんだ。“夢を描くことは罪ですか?”って――」
「監視員はなんて答えたんだ?」
そう訊くマイクの声は優しさを秘めていた。
「“夢を描くことは罪だ。お前らは土に還るために生きているからな”だって」
「そうか」
さっきとは裏腹にマイクの声は冷たかった。それは、自分自身に向けられたものではなく、監視員に向けられた絶望なのだということくらいルイスにも分かった。
「何回聴いても、別の監視員に訊いても、同じ答えだったよ。だから、もうその質問はしないようにしてたんだ。――あのさ、マイク。夢を描くことは、罪なのかな?夢を見ることは、いけないことなのかな?」
「そんなわけないだろ。その夢が、生きる勇気になってるんだから。ルイスはこれからもその夢を描き続けて、叶える権利があるんだよ」
はっきりと、強くマイクは言った。
「ありがとう。今まで肯定してくれた人なんていなかったからさ。安心した…」
ルイスは右手で両目を押さえた。そうしないと、涙がこぼれそうだったのだ。
「おっと、ルイスのところだけ局地的な雨が降ったようだ」
おどけた表情でマイクは言った。ルイスは涙目で笑った。今までで最も、自然な笑い方だった。夜空の星も、笑っているように見えた。
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