第10話 質問

「それはな――。ルイスは他の従業員と比べて目に光があるからだよ」


 それを聞いたルイスは目を見開いた。彼は、自分も他の従業員と同じように死んだ魚の目をしていると思っていたからだ。


「他にも僕みたいな人いなかったの?」


 強がってそう訊くと、マイクは頷いた。


「ルイス1人にしか声を掛けなかったことがその証拠だ。あとは――生き残る勇気を持っているように見えたから、かな」


「生き残る勇気……」


 ルイスは自分にしか聞こえない小さな声で呟いた。自分が昔から知っている言葉のような気がして、なんだか嬉しかった。


「俺からも訊いていいか?」


「うん」


 ルイスは即答した。マイクはその反応に持ち前の爽やかな笑顔を見せた。


「ルイスはどんな経緯いきさつ紡績工場ここに来たんだ?」


「小さい頃に、交通事故で両親が亡くなったんだ。僕は生き残ってたから、孤児院に預けられて、里親に引き取ってもらって。そのあとここに来た。あんまり覚えてないけど――4年前くらいのことかな」


 ルイスは表情を変えずに淡々と話した。紡績工場に来るまでの記憶はほとんどなく、里親から聞いた話をしただけだからだ。自分の過去というよりは、他人の過去を説明しているような気分だ。


「そっか」


 マイクは同情や哀れみの目を向けることなく言った。ルイスにとってそれは嬉しいことだった。自分が送ってきた人生も悪くない、そんな気がしたからだ。


「マイクは?」


「俺は……高校卒業して――ここに就職したってことかな。俺、塾に行くお金も大学に行くお金もない貧乏な家だったから。ここに就職するって決まった時、両親は無邪気に喜んでたよ。全寮制だから、心配いらないねって」


 マイクは空を仰いだ。変わらず満天の星が輝いている。


「そうなんだ……」


「でも、ま、両親を恨んだことは一度もないな。両親はここがどんな所か知らなかったし、俺を愛してくれたことは揺るぎようのない事実だから」


「いいな」


 ルイスは心の声を漏らしてしまった。仕方のないことだろうが。


「ルイスも、実の両親には愛されてただろ?」


「……わか、んない」


 ルイスは作業着のズボンの左ポケットの赤いミニカーを握った。


「俺はお前の人生を送ってないからわかんないけど。ルイスが生きてるのは、両親がルイスをかばって亡くなったんじゃないか、って思ったんだ」


「……そうなのかな」


 ルイスは俯いた。


「そうだよ。そう思って生きてる方が、幸せな人生だろ?」


「うん」


 ルイスはコクンッという音がしそうなほどしっかり頷いた。


「……なぁ、ルイス。外の世界に出られたら、何がしたい? 将来の夢とかある?」



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