第9話 東門
「ごめんな。勝手に憎んで勝手に愚痴って――。俺が悪かった。全部俺のせいだ」
マイクの一人称は“僕”から“俺”に戻っていた。感情的になると、“僕”と言ってしまうのだろうか。
「もしもピーターさんが救けに来てくれたら、疑ってたことを謝ってね」
「分かった」
マイクはゆっくりと頷いた。
「そういえば、時間大丈夫?」
「あぁ――急がないとやばいかもな」
そう言うマイクは、いつもと変わらない爽やかな青年だった。
「えっと、次は?」
「門をぶっ壊す」
「マイクのお家芸だね」
彼らは不敵に微笑んだ。
「うーわー、こんなのあったんだ……」
「ぼろぼろだ……」
彼らの前には、老朽化した鉄製の門。蝶番も錆びている。マイクの心の声が漏れてしまうのも無理はない。
「これも蹴り壊してくれるの?」
「いや、これはそこまで脆くないよ。頭を使おう」
マイクは人差し指で自分のこめかみを指した。
よく見れば柵と門の間は僅かな隙間しかない。紡績工場から逃げ出すことが出来ないように精巧に造られていたのだろう。
「じゃあ、どうやって?」
「自然の力を借りる」
言うなり、マイクは落ちていた小枝を拾い出した。そして、柵と門の隙間に差し込んでいく。
「それくらいで壊せるの?」
「いや、壊せないよ。あそこから水を汲んできてくれ」
ルイスは一瞬で門が壊れるのを期待していたので、マイクの地道な作業にうんざりし始めていた。それでも、その気持ちを抑えつけて指示に従うことにした。
マイクが指差した方に歩いていくと、廃れた水道とバケツがあった。そのバケツに水を汲めるだけ汲み、零しながらマイクの元へと持って行った。小枝は増えて、門の周りをぐるっと囲っていた。
「ありがとうな」
マイクはバケツを受け取り、水を小枝にかけていった。
「こうすると、木が膨張するんだ。しばらくしたら門も壊れるだろう。それまでは気長に待つしかないな」
「わかった」
彼らは柵に背を預けて数分間黙っていた。その間、生誕祭で騒ぐ監視員達の声が聞こえた。酔いが回っているのだろう、大声で歌を唄っている。笑い声も聞こえる。
先に口を開いたのはルイスだった。
「訊いてもいい?」
「いいよ」
マイクに躊躇はなかった。ルイスの表情が少し変わった。自分が信頼されていると分かったからだろうか。あるいは、
「あの時、どうして僕に声を掛けたの?」
それは、ルイスがマイクと出会ってからずっと抱えていた疑問だった。なぜたくさんいる従業員の中からルイスを選んだのか。
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