第7話 裏口

 ほこりを被った下駄箱に、サビだらけの扉。全体的に灰色で、薄暗く寂しさを感じる。スイッチらしきものがあったので押してみたが、天井の裸電球は埃を被ったままで点かなかった。裸電球だって来訪者がいると思っていなかっただろう。ここ数年、誰かが使った形跡は見られないのだから。そもそも、裏口の存在を知っている人は何人なんにんいるのだろうか。マイクやピーターのような、寮を探検しようと思い立ち実行してしまうチャレンジャーでないと見つけられないだろう。


「寮に裏口なんてあったんだね……」


「あぁ。上層部うえには絶対に言うなよ。あいつらも多分知らないから」


 マイクは、作業着の胸ポケットにしていた2本のピンを外した。


「持ってたっけ、そのピン」


「寮に隠しておいたんだ。裏口の扉は中からも外からも鍵がかかっている。だから、これで開ける。こう見えてピッキングは得意だからね」


 マイクはしゃがんで鍵穴に目線を合わせる。それからしばらくしても、寮の一角にカチャリカチャリという小さな音が響くだけで、開きそうにない。多少なりとも焦り始めたルイスは、マイクに訊いた。


「前回はどうやったんだ?」


「ピーターが開けてくれた。あいつは、ピッキングの天才だからな。このピンをくれたのもあいつだ。今までお守りとして大切に持ってた」


 ずっと机の引き出しの奥に隠していたテストの0点の答案用紙を母親に見つけられてしまった子供のような顔でマイクは答えた。


「マイクがピッキング得意っていうのは?」


「……嘘です。ごめんなさい」


 テストを我が子の眼前に突き付けて問いただす母親ルイスとこうべれてしょぼくれる子供マイク。はたから見ればそんな感じだ。


「何でそんなことすんの? 焦ったんだけど」


「あの時のピーターがかっこよく見えて……。俺もああなりたいと……」


 なおも問いただす母親と、更に深く頭を垂れる子供。


「かっこつけたかったのか。それは分かった――ことにするよ。どうしよう、これ?」


 溜息をいたルイスに反応して、マイクの目が一瞬、キラリと輝いた。


「壊していい?」


「……どうぞご自由に。僕は責任取らないけど」


 ガシャッ、バキッ、メキャッ、ポロ。


 ルイスが再び溜息をくのと、破壊音がするのは同時だった。マイクが蹴ったため、鍵穴が取れたのだ。


 ガチャリ。


「開いたよ」


 錆びれた鉄の扉を壊して開け、爽やかな笑顔のマイク。それを見たルイスは無意識にこう呟いていた。


「かっこよ」


 と。

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