第6話 通路

 ガタッ! ゴロゴロバタッ! バン!


「……ちょ、は……え?」


 ――大量のガラクタ。それらは雪崩なだれてきた。ほこりの舞を見せられても嬉しくともなんともない。スタンディングオベーションする気なんて微塵みじんもない。


「前に来た時もこんな感じだったからな」


 うろたえるルイスにマイクは平然と言った。


「え……。どう切り抜けたの、これ?」


「平泳ぎよろしく物をかき分けて進んでいった」


 マイクは白い歯を見せてそう言ったが、ルイスには平泳ぎというものがどんなものか分からなかった。


「…秘密の通路じゃないじゃん」


「ここを抜けたらあるから」


 爽やかな笑みのマイクにルイスはぎこちなく口角を上げて言った。


「……仕方ないな。行きますか」


「おぅっ。俺先頭なー」


 マイクが先陣を切り、ルイスは後に付いた。


 足の踏み場がないので、ガラクタを踏み付けて歩く。時折、マイクがかき分けつつ放り投げた布切れやボロボロの箱がとんでくる。


「その箱、何が入ってるの?」


 ルイスは興味本位で訊いた。だが、


「世の中には知らないほうがいいこともある」


 返ってきたのは冷たい声で、思わず口をつぐんだ。


 無言でガラクタの山を登り、下り、しばらく進むと急に視界が開けた。どうやら、この部屋は普段彼らが寝泊まりしている部屋と同じくらいの大きさだったようだ。


「……掛け軸?」


 目の前にある物体の名前は確かそう言うはずだ。マイクは頷き、掛け軸をひるがえす。


「ここが、秘密の通路だよ」


 その壁には、ぽっかりと穴が空いていた。人1人がぎりぎり通れそうな円形の穴。ルイスは、その全てを飲み込んでしまいそうな黒い穴ブラックホールに恐る恐る右手を入れてみた。そして床のような壁のようなものをペチペチと叩く。


「土管……?」


「まぁ、そんなところだろうね」


 早く入れという仕草しぐさと共にマイクは答える。ルイスは頭を突っ込み、四つん這いになって入った。同じようにしてマイクも入る。


「暗……。怖……」


 怯えるルイスにマイクは小さな子どもを諭すようにこう言った。


「引き返せないんだよ、俺達は。前に進むしかないんだ」


 ルイスは暗闇の中でコクンと頷いて歩を進めた。


「いたっ!」


 沈黙を破ったのはルイスの叫び声だった。


「大丈夫か」


「きっと大丈夫。もしかしたら突き指したかも。ここで行き止まりってことかな」


 左手の人差し指をかばいながらルイスは呟く。


「右の方、見てみろ。光が差してる。あれが出口だな」


「本当だ。じゃあ、右に曲がるよ」


 えっちらおっちら、四つん這いで方向転換する。


 再び空間を沈黙が支配する。徐々に空間が明るくなっていき、拓けた。


「やっとこの体勢から解放されたよ」


 大きく伸びをするマイクにルイスは訊いた。


「ここが寮の裏口?」


 マイクは首を縦に振った。

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