第4話 その日

 砦では、2人で他愛無い話ばかりしていた。脱走計画を立ててしまうと、監視員に聞かれる恐れがある、と彼らが出会った次の日に気付いたからだ。最も、ルイスは他愛無い話が出来ないので、マイクの話にただひたすら相槌を打つだけだったが。


 数週間後。檻から抜け出す日その日はやって来た。


「ルイス、おはよ」


「おはようマイク」


 第2レーンでいつものように挨拶を交わし、マイクは自分の担当のレーンへと向かった。去り際、マイクがサムズアップしたのをルイスは見逃さなかった。ルイスは自然と口角が上がってくるのを感じながら自分の担当のレーンについた。


 もくもくと入道雲が湧き起こる、絵に描いたような碧空の日のことだった。もっとも、紡績工場で働く人々彼らは何年間も空を見ていないのだが。




 数時間後。ブツッという音がして放送が入った。


“本日はアドルフ工場長の誕生日です。生誕祭は日没より、ホールにて行われます。監視員は全員出席してください。――従業員は今すぐに仕事を切り上げ、寮で待機せよ。仕事の再開は明日の正午だ”


 ブツッという音がして放送が切れた。彼らは、監視員に対しては敬語が使われ、従業員に対しては命令形が使われることになんの疑問ももたない。


「はぁ~あ。仕事終わったぁ」


 マイクは大きな欠伸あくびと共に伸びをした。他の従業員と寮へ向かう。ルイスも武者震いを押さえつけて寮へ向かった。ルイスの目には今までより明るい光が灯っていた。




 寮では、ほとんどの従業員が冷たい床で昼寝をしていた。日頃の睡眠不足を補うためだろう。彼らの表情は疲れたような、苦しいような、一時的に現実逃避をすることができて嬉しいような――複雑な表情をしていた。


 全員が心から笑顔になることは不可能なのだろうか。


 ルイスはそんなことを思った。




 寮の玄関には、2つの人影。1人は少年。もう1人は青年。ルイスとマイクだ。


「ただいまより、作戦会議ミーティングを行う」


了解ラジャ


 彼らは小声で作戦会議を始めた。


「知っている人は滅多にいないと思うが、この寮には秘密の通路がある。工場長も知っているようには見えない。寮を建設した人が無断で造ったそうだ。造った人は、自分が建設した寮が収容所になるって気づいてたんだろうな。その人には頭が上がらないよ」


“頭が上がらないよ”と腕を組んで言ったマイクにルイスは問う。


「その秘密の通路ってどこにあるの? なんでマイクは知ってるの?」


「ピーターと寮を探検したときに見つけたのさ。場所は口頭では説明しにくいな」


「ふぅん」


 緊張感皆無で返事したルイスをマイクは軽く睨んだ。


「怖くないのか。死ぬかもしれないんだぞ」


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