第2話 ミニカー

13thirteen17seventeen11eleven29twenty-nine。何故手を止めているんだ。お前らは土に還るために生きている。そうだろ? だから働け」


「「はい」」


 2人同時に鋭く返事すると、監視員は去って行った。


監視員達あいつら、うぜーよな」


 小さくなっていく監視員の背中に目を向けてマイクは言った。マイクの目は、愚痴をこぼさず真面目に働く他の従業員よりも、希望ひかりを秘めていた。


「そんなこと言っちゃだめだよ。――同感だけど。――でも僕たちは監視されているから。所詮、檻の中の家畜なんだよ」


「だな。――だったら、その檻から抜け出そうぜ」


 悪戯をしようとしている子供のような目でマイクは言った。


「……不可能だろ。僕たちは監視員と監視カメラによって監視されているし、柵も高いからよじ登って落ちたら死ぬ。危険しかない」


 ルイスは即座に否定した。すると、マイクはさらに目を輝かせた。ルイスを説得させるための闘魂バトルスピリッツからだろうか。


「でもな、数年前――実際に脱走した奴がいるんだよ。上層部うえの奴らが血眼になって探したが、戻ってきていない」


「……」


 ルイスは紡績工場で働き出した頃のことを思い返していた。その頃、脱走した人がいると噂になっていたという微かな記憶がある。その人が今も生きているかどうかは分からないが。見つかって抹殺されている可能性は無きにしもあらずだ。


「そいつに協力して、脱出する手口を教えてもらった。どうだ、俺達の明るい未来を自分の手で創らないか?」


 ルイスの心は揺れていた。

 ――檻から抜け出したい。でも抜け出すにはリスクが大きい。


 ルイスは作業着のズボンの左ポケットに手を突っ込み、所々塗料が剥げている赤いミニカーを握り締めた。そのミニカーは肉親の形見だ。ルイスは3歳の夏、交通事故に遭った。奇跡的にルイスは助かったが、両親は救急車で病院に搬送され、死亡した。その後、孤児院を経て、里親に引き取られた。事故に遭った時からずっと握り締めていたもの――それがこのミニカーだ。悲しい時も寂しい時も、勇気が欲しい時も、ミニカーを握れば安心感を得られる。


“大丈夫だよ”


 ――実の両親が、そう励ましてくれている気がして。顔なんて覚えていない、思い出せない実の両親に。


 勇気をもらったルイスは口を開いた。


「脱走したい。檻から抜け出したい。未来への扉を、自分自身の手でこじ開けたい」


「よく言った、ルイス」


 マイクは笑顔でルイスの頭をわしわしと乱暴に撫でた。


「うん――。脱走した人のこと教えてよ」


 もともとボサボサの髪を手櫛で整えながら訊いた。


「そうだな。彼の名前はピーターだ。俺が名付けた」


「え、その人ってもしかして――」

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