第2話 ミニカー
「
「「はい」」
2人同時に鋭く返事すると、監視員は去って行った。
「
小さくなっていく監視員の背中に目を向けてマイクは言った。マイクの目は、愚痴をこぼさず真面目に働く他の従業員よりも、
「そんなこと言っちゃだめだよ。――同感だけど。――でも僕たちは監視されているから。所詮、檻の中の家畜なんだよ」
「だな。――だったら、その檻から抜け出そうぜ」
悪戯をしようとしている子供のような目でマイクは言った。
「……不可能だろ。僕たちは監視員と監視カメラによって監視されているし、柵も高いからよじ登って落ちたら死ぬ。危険しかない」
ルイスは即座に否定した。すると、マイクはさらに目を輝かせた。ルイスを説得させるための
「でもな、数年前――実際に脱走した奴がいるんだよ。
「……」
ルイスは紡績工場で働き出した頃のことを思い返していた。その頃、脱走した人がいると噂になっていたという微かな記憶がある。その人が今も生きているかどうかは分からないが。見つかって抹殺されている可能性は無きにしも
「そいつに協力して、脱出する手口を教えてもらった。どうだ、俺達の明るい未来を自分の手で創らないか?」
ルイスの心は揺れていた。
――檻から抜け出したい。でも抜け出すにはリスクが大きい。
ルイスは作業着のズボンの左ポケットに手を突っ込み、所々塗料が剥げている赤いミニカーを握り締めた。そのミニカーは肉親の形見だ。ルイスは3歳の夏、交通事故に遭った。奇跡的にルイスは助かったが、両親は救急車で病院に搬送され、死亡した。その後、孤児院を経て、里親に引き取られた。事故に遭った時からずっと握り締めていたもの――それがこのミニカーだ。悲しい時も寂しい時も、勇気が欲しい時も、ミニカーを握れば安心感を得られる。
“大丈夫だよ”
――実の両親が、そう励ましてくれている気がして。顔なんて覚えていない、思い出せない実の両親に。
勇気をもらったルイスは口を開いた。
「脱走したい。檻から抜け出したい。未来への扉を、自分自身の手でこじ開けたい」
「よく言った、ルイス」
マイクは笑顔でルイスの頭をわしわしと乱暴に撫でた。
「うん――。脱走した人のこと教えてよ」
もともとボサボサの髪を手櫛で整えながら訊いた。
「そうだな。彼の名前はピーターだ。俺が名付けた」
「え、その人ってもしかして――」
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