少年期
第1話 出会い
少年は、自分の名前を知らなかった。なぜなら、名前を持っていなかったからだ。
推定で6歳までは、里親のもとで幸せな人生を送っていた。実の親がいないこと以外は不自由ない、幸せな人生だった。だが、7歳の誕生日、里親にこう告げられた。
「大きくなったね。もう立派な大人だから、働いてみない?」
“立派な大人”という言葉に乗せられた少年は、
キィッコトン。コトンコトン。
ただひたすら、機械が誤作動していないか見張る。誤作動していた場合は直ちに直す。ただひたすら。
「少年」
黙々と作業していた少年は、唐突に肩を叩かれた。手を止めて振り返ると、19歳ぐらいの青年が爽やかな笑顔でこちらを見ていた。働いている人に話しかけられることはあまりない。従業員は孤独に働き、孤独に生活する。孤独の複数形――それが、この集団を示すにふさわしい言葉であろう。また、青年の瞳には
「はい」
瀕死状態の魚の目で少年は返事した。
「名前はなんというんだ」
「
「それじゃない。それは個人を特定する
青年の視線は少年の作業着の左袖に注がれていた。そこには、黒の糸で「13‐17」と刺繍されている。
名前。実の親や里親が付けていてくれたかもしれない。今となっては覚えていないが。過去の名前を思い出す気もない。
「
「あぁ。俺の名前はマイクだ。幼い頃、一緒にここで働いていた友達と名付けあったんだ。だから、俺のことはマイクって呼んでくれ。それと、敬語使わなくていいよ」
青年――マイクは胸を張って名乗った。
「わかったよ、マイクさん」
「マイクでいい。ところで少年。自分の名前を欲しくないか?」
少年は、正直どちらでも良かった。
「じゃあ――ルイス。今日からこれが君の名前だ。どうだ、気に入ってくれたか?」
マイクの問いに、少年――ルイスはコクッと首を縦に振った。どことなくぎこちない笑顔だった。何年間も表情筋を動かしていなかったからだろう。
その時。監視員がやってきた。ルイスは思わず凍りついた。マイクと話している間手を止めていた――仕事をサボっていたのだから。
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