札束ビンタでお買い物
サッカートークで盛り上がっていたら、気がつけば日が落ち始めていた。
今日は時間があれば買い物をする予定だったけど、ガイアは日没前にほとんどの店が閉まるらしい。
開いてるのは酒場や宿の飯屋くらい。
まぁ、当然だなって思う。
日が落ちると街は一気に暗くなる。
一応魔力を流すと明るくなる魔石を利用した電球のような物が一般家庭レベルで普及しているけど、明かりがあるのはあくまで室内の話。
屋外には明かりは当然ない。
外に設置しても、誰が魔力を流してくれるんだって話だよね。
というわけで、買い物は明日にすることにして夕食をとることにした。
先に厩舎に行って百段たちに果物をあげてから、宿の食堂スペースに向かった。
食堂に入ると、魔女と聖女とモンスターの異質トリオは注目を浴びまくった。
さすがに居辛くなったので、食事を部屋に持ってきてもらうことにした。
「いや~、参ったね~」
「あんなに注目されると話もできないねー」
「まぁ、食事を部屋に持ってきてくれたし、逆に良かったんじゃない?」
「そうかもね~」
「明日は買い物をしたいんだけどさ。
ジズー、今日の狩りのお金も使わせてもらってもいい?」
「え、もちろんいいよ?
てか俺お金なんて使えないし、澪たちに全部使ってもらったほうがいいよ」
「ありがとう、ほんと助かるよ。
あ、ちなみにジズーは必要な物とか欲しい物ないの?」
「必要な物に欲しい物かぁ。
うーん……。
あ、そうだ。
俺サイズのボディバッグとかショルダーバッグのような物がほしいんだけど、オーダーメイドとかって時間かかるかな?」
「オーダーメイドかー、どうだろうね。
明日店で聞いてみよう。
何か持ち歩きたい物とかあるの?」
「ほら、今は雫のリュックに入れてもらってるけど、女神像は俺が持ち歩けるならそのほうがいいなって。
あとはまぁ、バッグはあると便利だろうし?」
「女神像か、それもそうだね。
他にも何か欲しい物あったらその都度言ってね」
「わかったー」
「私たちは何が必要かな~」
街を出たら買い物なんてできない。
買い忘れとかないように、澪と雫はご飯を食べながら買い物リストを作っていった。
翌日、俺たちはこの街で一番大きい店に来ている。
いろいろな物を取り扱っているらしく、ここでまとめ買いをすればお金がおつりでかさばらずに済む。
まずは俺のボディバッグのオーダーメイドを頼んだ。
急ぎなので今日中でと頼んだらムリだと言われたけど、金貨十枚依頼料として渡したら喜んで受けてくれた。
それから澪と雫は服を見始めた。
女性の服選びは長いって前世で聞いたから、俺は適当に周りを見てみる。
いろんな商品があるけど、全体的にめっちゃ高いなって思った。
そういえば日本と比べると物価がかなり違うって言ってたっけ。
この店の値段が普通なら、かなり物価が高いなぁ。
まぁ、物が溢れる現代とは違うんだし、当然か。
うーん、猫だと買い物なんてできないから暇だなぁ。
暇だと眠くなる、ふあっ。
昨日は夜、薫子さんにサッカーのオフサイドについて説明してちょっと夜更かしして睡眠不足だ。
昨日のサッカートークの様子を神界で見ていた薫子さん。
サッカーに興味を持ったらしく、まずはルールを教えるところから。
俺の説明が下手なのかもしれないけど、何も知らない人にオフサイドの説明をするのは難しかった。
最終的にはわかったって言ってたけど、ほんとにちゃんと理解したのかなぁ。
あやしい。
しばらくすると、澪と雫は馬車を見ていた。
馬車については今朝、事前に百段たちに確認をした。
百段たちに馬車をひいてもらうことは可能なのか聞くと、問題ないとのこと。
むしろ、大きめの馬車に人と荷を一杯積んでも百段1頭で余裕だと言っていた。
頼もしいなと思ったけど、桜と椿の前だし強がってる可能性もある。
ちゃんと三頭でひいてもらうことにした。
百段は不満そうだったけど。
馬車を買うから、野営は森の中ではなく街道脇の森の入口ですることにした。
馬車で森の中には行けないからね。
森の外で野営をするので人の目につきやすくなるけど、明日髪を染めるし服も普通の旅人っぽい物にするので大丈夫かなという判断だ。
いざとなったら馬車を盾にして戦うこともできるしね。
それにしても……。
澪と雫が馬車コーナーで店員さんとすごく話し込んでる。
まだまだ時間かかりそうだなぁ。
特に見るものとかないので、店の端っこでおとなしく座っていたら店員さんが声をかけてきた。
「従魔様、よろしければこちらをお使い下さい」
そう言って俺にクッションを差し出してきた。
え、なに?
俺クッション使っていいの?
え、ていうかガイアで初めて人間に優しくされた!
もちろん澪と雫以外で。
従魔様とか呼ばれちゃったし。
何この人、超いい人!
かわいいし、俺好きになっちゃうかも!
てか好き!
しゃべるわけにもいかないから、「にゃー」とだけ鳴いてクッションの上で丸まった。
すると店員さんは行ってしまったけど、俺はしばらくその店員さんを目で追い続けた。
モンスター扱いしかされなくて絶望しかけてたけど、こういう人もいるんだなぁ。
夢の飼い猫ライフも、もしかしたら希望が出てきたかも!
昼頃、一旦お昼ご飯にすることにした。
どこか適当な飲食店に――と思ったが、開いている飲食店がなかなかない。
澪曰く、ニーゲン王国は朝と夜の一日二食が一般的らしい。
なので飲食店はほとんど開いてない。
というわけで、宿の食堂で食べることにした。
「結局馬車のところで店員さんとずっと話してたけど、何か問題でもあったの?」
「ううん、そういうんじゃないよ。
ほんとなら馬車もオーダーメイドにしたかったんだけど、私たち時間がないからさ。
既成品を少しいじってもらおうと思ってね」
「なるほど。
既成品って使いにくいの?」
「んー、どうなんだろ?
ただ私たちは商人とかみたいに、荷物をたくさん運ぶのが目的じゃないからね。
私たちにとって使いやすく、あとは百段たちの負担を減らすような仕様にしてもらうの」
「急ぎのオーダーメイドとか手直しとかなのに、よくやってもらえたね。
たまたまそれ系の仕事がはいってなかったのかな?」
「そうじゃないよ。
紙幣じゃないからちょっと違うけど、いわゆる札束ビンタでお願いしたって感じ?
こんなブルジョワな買い物初めてだよ。
ちょっと癖になりそうだし!」
「あー、なるほどねー。
札束ビンタかぁ……、確かに庶民の憧れではあるね」
「ふと思ったんだけど、ジズーちゃんは服いらないの~?
日本でも服着てる猫ちゃん普通にいるよ~?」
「えっ?
考えたこともなかった……。
うーん、でも動きにくそうだし別にいいかなー」
「えぇぇ~?
ジズーちゃんの服考えたかったんだけどな~……、残念」
あっぶねー、着せ替え人形にされるところだったか!
「この後も買い物だよね?」
「うん、あとは旅グッズとか消耗品とか細々したものかなー」
「そっかそっか、じゃあそれも二人に任せてもいい?
百段たち、ずっと厩舎で退屈だろうし厩舎にいようかなーって」
「おっけー。
じゃあ、欲しい物とか思いついたら店に来てねー」
ご飯を食べた後、厩舎へと向かう。
暇そうにしてるだろうなぁと思いながら厩舎に入ると、百段はイチャついていた。
桜と椿とイチャついていた。
まじかー、まじかー。
普段すましてるくせにデレデレじゃんか。
うわー、見たくなかったわー。
リア充――いや、リア獣め。
周りの馬も心なしかイラついてる感じだね。
まぁ、すっかり三頭の世界に入ってる彼らは気づく気配もないけど。
はぁ……。
俺は気づかれる前にそっと厩舎を出た。
さーて、何しようかな。
いきなりやることなくなっちゃった。
うーん。
猫の俺にやることなんてないな……。
寝るか!
宿に戻って適当にゴロゴロしよう!
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