時給千五百万円

 台車に赤い熊を載せて冒険者ギルドへ向かう。

 とりあえず、うん。

 めっちゃ目立つ!

「熊すっごい見られてるね~」

「赤いし大きいからねー、こんなん普通に暮らしてたら見ることないだろうしね」

 それを運んでるのが魔女様と聖女様っていうのも目立つ理由だとは思うけど、インパクトは熊のほうがはるかに強いね。

 冒険者ギルドに入るとざわっとした。

 受付に行くと、お姉さんが驚きでよくわかんない顔になってた。

 だけどさすがは美人。

 どんな顔でもキレイだなぁ。

「ず、随分とお早いおかえりですね……。

 しかもレッドグリズリーもしっかりと討伐して……」

「それなんですが、レッドグリズリーは森に入って十五分ほどの場所で遭遇しました。

 だから短時間で済んだのです」

「えっ、そんな浅い場所にいたんですか!?」

 お姉さんは驚き、すぐに真剣な顔になって考え込む。

「……、レッドグリズリーは数が少ないモンスターですけど、一応ギルドから森に入る方々に注意を促したほうが良さそうですね。

 ご報告ありがとうございました」

「いえいえ。

 ところで、討伐報酬とは別に、レッドグリズリーを買い取ってもらうことってできるんですよね?」

「はい、モンスターの買い取りはあちらの窓口で承っております。

 まずはこちらで討伐報酬をお支払い致します。

 今回は緊急性の高い依頼でしたので割高になっております。

 金貨五百枚となりますが、白金貨でのお支払いに致しますか?」

「そうですね、白金貨でお願いします」

「かしこまりました。

 こちら、白金貨五枚になります。

 では次はレッドグリズリーの査定をさせて頂きたいと思います。

 こちらへ」

 一度モンスターの買い取り窓口に寄った後、裏の倉庫に案内された。

「親方、査定お願いします。

 討伐依頼の出てたレッドグリズリーです」

「おおっ!

 依頼を受けてくれる冒険者が来たのか、よかったな!」

「親方!

 失礼ですよ、冒険者ではありません!」

「は?

 冒険者じゃないなら――は!?

 あれ……?

 もしかして、魔女様と聖女様か?……じゃねえ、ですか?」

「普通に話してくれて構いませんよ。

 私たちも堅苦しいのはあまり得意ではありませんので。

 それで、このレッドグリズリーなんですが、どんな感じですか?」

 澪は手短にすませたいのか、話を進める。

「あ、あぁ。

 それじゃあ見せてくれ」

 熊を広い作業台にのせた。

 台の上で大の字になる感じに置く。

 こうやって改めて見ると、めっちゃ大きかったんだなぁ。

「こりゃすげぇ!

 毛皮に傷が一切ついてないじゃねーか!

 レッドグリズリーは攻撃がなかなか通らないから、倒すとなると何度も何度も攻撃することになる。

 普通は毛皮も爪もボロボロになってるもんだ。

 それなのにこいつぁ……、どうやったらこんな風に倒せるんだ……?」

 親方が超困惑してる。

「レッドグリズリーにいきなり襲いかかられて私の従魔が攻撃されたんですけど、私の従魔が攻撃を避けてそのまま下から顔にワンパンで仕留めました。

 私の従魔すごく可愛いんですけど、えぐいでしょう?」

 澪が俺を抱き上げて、笑いながら言う。

 いやいや、それ笑いながら言うことじゃねーから!

 ほら、親方が顎がはずれそうなほど驚いてんじゃん!

 お姉さんは驚きの許容量をこえたのか、目が死んでるぅぅ!

 そのままフラフラと「では私は仕事がありますのでこれで……」と言って戻っていった。

 キレイなお姉さんにあんな目されるのはきついなぁ……。

「マジかよ……、その小さいのが……ワンパンだと!?」

「えぇ、うちの子すごいでしょう?」

 そう言って俺の頭を撫でる。

「にゃー」

 俺も一応可愛さアピールしてみた。

 無駄だろうけど……。

「これだけ状態がいいと、毛皮がたくさんとれるし爪も全部使える。

 普通なら金貨百枚くらいだが、これなら金貨千枚ってとこだな。

 それでいいか?」

「ええ、それで結構です」

「支払いは全部白金貨にするか?」

「ええ、お願いします」

「あいよ!

 ちょっと待っててくれ」




 お金を受け取って冒険者ギルドを出た。

 そのまま買い物かなと思ったが、一旦宿に戻った。

「いやー、なんかめっちゃお金稼げたねー。

 私熊運んだだけだけど」

「超ビックリだね~。

 私も熊運んだだけだけど」

 二人はベッドに座りながらはしゃいでる。

 俺もベッドの上で丸まった。

「俺はガイアの貨幣とか価値とかわかんないんだよね。

 日本円でどのくらいになったの?」

「貨幣は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、黒金貨の六つで、


 鉄貨=十円

 銅貨=百円

 銀貨=千円

 金貨=一万円

 白金貨=百万円

 黒金貨=一億円


 って感じかな」

「えぇ?

 じゃあ今回全部で千五百万ってことなの!?」

「そうだよ~!

 ジズーちゃん、一時間くらいで千五百万円稼いだんだよ~!」

「マジかすげー!

 すげーけど……ガイアじゃ意味ないし!」

「意味ないってことはないっしょー」

「でもでも!

 日本で千五百万持ってたら……。

 金に物を言わせてチャンピオンズリーグ決勝のいい席のチケットを買って、観戦ついでにヨーロッパ旅行っていう俺の夢を叶えられる!」

「あー、いいなーそれ!

 そういう事言われると、こっちで荒稼ぎして地球にお金持ち帰りたくなるじゃん!

 金貨とか一応金なわけだし、換金できそうだしね!」

「めっちゃ具体的な事言ってるし!」

「チャンピオンズリーグか~……。

 結局決勝観れなかったな~。

 何度も思ったけど、なんでよりにもよって決勝当日の試合前に召喚するのって話だよね~」

「あ、召喚されたのって決勝の日だったの?」

「そうだよ。

 おかげで私は最初から王がキライだったかんね!」

「私も~!」

「それはしんどいね。

 決勝は一年で最も大事な日と言えるのに」

「そういえば、ジズーはガイアに来てまだ数日なんだっけ。

 てことは決勝観たの?」

「うん、観たよ。

 その日は容態も安定してた頃だからね」

「「おおおぉぉぉおお!」」

「どっちが勝ったの!?

 マドリーは三連覇が懸かっててガチだっただろうし、レッズはあの時すっごく勢いあったし、正直予想つかなかったのよ!」

「決勝を観逃して一ヶ月ちょっと、まさか異世界で結果を知ることになるなんて思わなかったよ~!

 どっちなの~?」

 圧がすごい!

「マドリーが3-1で勝ったよ、三連覇っす」

「おー、マドリーかー!

 レッズの勢いでもダメだったのねー」

「プレミア好きとしては残念だな~。

 でも三連覇か~、歴史的だね~」

「でも試合自体はサッカーファンとしてはちょっと残念だったかな。

 前半のうちに負傷交代が二つあったからね」

「え、マジで?

 だれだれ?」

「サラーとカルバハル。

 点がたくさん入る打ち合いの決勝を期待してたから残念だったよ」

「えぇっ!?

 サラー負傷交代なの~?

 それはない……、それはないよ~!」

「あとは試合終了間際ではあったけど、観客がピッチに乱入して試合が止まったりとかー」

「えぇぇー、マジで~?」


 それからしばらくチャンピオンズリーグ決勝トークをした。

 二人とも決勝の結果がすっと気になっていたんだろうな。

 こんなにはじけてる二人を見るのは初めてだし。

 まぁ、気持ちはわかる。

 決勝の日に観る前に召喚されるとか、究極の嫌がらせだからね。

 王様とはいえ、絶対に許されることじゃない!


 結局、サッカートークが終わったのは日が落ち始めた頃だった。




――――――――――


サッカートークが入ってしまいました。

サッカーに興味がない方、すみません(人ω<`;)

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