ワンパンマン
「と、いう訳でですね。
無事に街に入ったわけですけれども……」
いきなり澪が変な口調で喋りだす。
「え、なに?
急にどうしたの?」
「ガイアに来たばかりのジズーにこの街の説明をしようと思います!
私も詳しくないけど!」
「あ、はい」
「ジズーがのってこなくてツライ……。
まぁいいや。
で、まずこの街はタテハマといいます。
王都の隣街で、資源豊富な森が近くにあるという立地のおかげですごく栄えてます。
王国で二番めに栄えてるとか誰かが言ってた記憶がございます。
――以上です」
「みじかっ!」
「野外訓練以外で王都から出ることなんてなかったからね。
なーんにもわかりません!」
「そりゃそうだよね。
じゃあとりあえずどうするの?
買い物するとか言ってたけど」
「まずは宿をとらないとかな~。
椿たちもいるから厩舎か獣舎付きだね~」
「その後は買い物――と言いたいけど、金策かなー。
一応お金は持ってるけど、必要な物買い揃えたら足りない気がする」
「あー、そっか。
お金の問題があったか。
猫だと働くこともできないなぁ……。
ごめん、猫でごめん!」
「大丈夫大丈夫。
モンスター狩ってお金稼ごうと思ってるから。
てか、何日も働くような時間はないし、むしろモンスター狩りしかないかな」
「あ、なるほど。
モンスターか」
「モンスターを狩って売るか、討伐依頼がでてるモンスターを狩って報酬をもらうか、どっちかだね。
まぁ、それは冒険者ギルドに行って、依頼を見てから決めるとして。
まずは宿を探そっか」
「「はーい」」
宿を何件か見て回って、その中から厩舎が広めの宿に部屋をとった。
危険な旅に同行してくれてる百段たちに、窮屈な思いはさせたくないからね。
部屋を確保したら冒険者ギルドへ。
ここでモンスターの討伐依頼なんかを受けられるらしい。
どんな依頼があるか見てみると。
「あ、冒険者ランクってのがあるんだね。
ランクによって受けられる依頼に差があるのか」
「忘れてたー。
ランク制限とかあるんだったね……。
よし!
高く売れそうなモンスターを狩って売ろう!」
「それしかないね~。
じゃあ森に行こうか~。
ギルドで大きな台車とか貸してくれないかな?」
「受付で聞いてみよっか。
ついでにお金になるモンスターも教えてもらおう」
というわけで、受付に行く。
受付にはキレイなお姉さんがいた。
どの世界でも、いつの時代でも、受付嬢というのはキレイな人が選ばれるんだなぁ。
「あの、モンスターを乗せて運べる台車か何かって借りることはできますか?
それから、高値で売れるモンスターの情報を教えて頂けると助かるのですが」
「はい、貸し出しています――よ!?
もしかして魔女様……ですか?
あっ、聖女様も!?」
「お気をつけていってらっしゃいませ」
「ありがとうございます。
ではお借りしますね」
いやー、魔女と聖女ってわかると全てがスムーズに進むなぁ。
街の入口も結局顔パスだったし。
千年経った今でも英雄って尊敬されてるんだなぁ。
受付のお姉さんはすぐにギルドマスターを呼びにいこうとしたけど、澪が止めた。
偉い人は基本、話が長くなるから困るとです。
「ラッキーだったね~。
冒険者ランク関係なく依頼受けられるなんて知らなかったよ~」
「英雄の肩書をあまくみてたねー。
私もここまで優遇されるとは思ってなかったよ」
「その分プレッシャーすごそう。
俺は耐えられないだろうなぁ」
「今回はありがたく英雄特権を使わせてもらいましょう!。
で、今回は被害も出てる緊急性の高そうな討伐依頼で、レッドグリズリーってのを狙います!
ランクAのモンスターで大きな赤い熊……かな?
狂暴で動きが早くて力も強くて、火属性の毛で覆われてて刃物もあまり通らない。
火属性の毛は火魔法は無効化するし水魔法も大幅軽減、他の魔法もそこそこ軽減するんだってさ」
「ランクAってどのくらいすごいの?っていうぐらい無知だからなんとも言えないけど、説明を聞くとすっごくやばそうな熊じゃない?
ざっくり言うと、物理攻撃はあまり効きません、魔法攻撃もあまり効きません、水魔法に関してはほぼ効きません、火魔法は一切効きませんってことでしょ?
これ……大丈夫なの?」
「正直言って、わかりません!
まぁ……、とりあえず火と水以外の魔法を思いっきり撃ってみるよ。
それがダメだったら……、熊を拘束するからジズーやっちゃって?」
「え、俺?
打撃あんまり効かないんだよね?
まぁ、その時はがんばるけど、あんまり自信ないなぁ」
「ジズーもダメだったら、雫ちゃんにバリア張ってもらって飛んで逃げよう!」
「任せて~!
二人とも私が絶対守るよ~!」
「よーっし、それじゃ行こー!」
「「おーっ!」」
タテハマの街の東門から東に進んで森に入り、そこから東に一時間ほど奥に行った辺りで熊は目撃されている。
受付のお姉さんはそう言っていた。
だから気を抜いちゃってたんだろう。
森に入って十分ほどで百段が周りを気にしだした。
どうしたのかなと思ったら、「強い気配を感じるから気をつけろ」と言われた。
それから数分、俺も妙な気配を感じた。
そして――。
「グルァア――!」
「うおっ、なんだ!?」
いきなり大きな赤い何かが突っ込んできた。
避けなきゃ――と思ったけど後ろには雫と椿がいる、避けれない。
受け止めなきゃ……、だけど体のサイズが違いすぎるぅぅ!
「ヒヒーン!」
ドカッ!
百段が横から赤いやつを蹴飛ばした。
「百段!
助かったよ、ありがとう!」
「ヒヒーン。(気にするな、まだ終わってないぞ)」
吹っ飛んでいったほうを見ると、大きな赤い熊が倒れていた……けどすぐに起き上がった。
百段の蹴りが全然効いてなさそうだ。
「これってもしかしなくてもレッドグリズリーだよね!?
なんでこんな森の浅いところにいるのよー!」
「なんか俺めっちゃ睨まれてるんだけど……。
さっきも俺狙われてたし。
俺ってうまそうに見えるの?」
「ガアアアアア!」
俺に突っ込んできて腕を振り下ろしてくる。
「あっぶね!」
避けた腕が地面に突き刺さる。
お、顎がガラ空き!
「とりあえず寝とけ!!」
カエル飛びアッパーのような感じで顎を打ち抜く!
すると熊の首がやばい感じで曲がった。
やっべ、またやっちまったか……?
「うわ~……、まさかのパンチ一発。
打撃は効きにくいってのはなんだったのって感じだね~……」
「今日からジズーのことワンパンマンって呼ぶよ。
これは笑うしかないね」
「それはやめて!」
熊、死んじゃったのかな?
気絶してるだけとか――はないか、首の骨折れちゃってるよねこれ。
「まぁ、怪我もなく時間もかなり短縮できたし。
熊もかなり綺麗な状態だからその分高く売れそうだし、依頼料も入るし。
うん、ベストな結果だね!」
「だね~!
結果オーライ!」
「そうだね。
じゃあ戻ろうか」
かなり大きめの台車を借りてきたけど、三メートル以上ありそうなこの熊をのせると体がはみ出た。
森の中を運ぶのはちょっと大変だけど、時間に余裕はできたしゆっくり運ぼう。
それにしても――。
「モンスター相手とはいえ、あんなに敵意剥き出しにされるのはへこむなぁ。
可愛いオーラが出てないのかな?
何が足りないんだろう」
アホなことを考えながら台車を押したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます