温泉大好き薫子さん
夕食の後片付けをして、すぐに寝ることにした。
やっぱり睡眠時間はなるべくしっかり取ったほうがいいかなって。
まぁその前に、葉っぱで歯を磨いたり、澪と雫は体を拭いたりとするわけだけど。
夜の見張りはどうしようかと思ったけど、ちゃんと全員寝ることにした。
少し心配ではあるけど、俺は猫になったせいか気配に敏感になったから、何か気配があれば目が覚めるだろうし、俺よりも鋭そうな百段もいる。
たぶん大丈夫だろう。
何かあれば薫子さんが教えてくれるとも言っていたし。
澪と雫は横になるとすぐに眠りについたみたいだ。
やっぱり疲れてるんだなぁ。
そりゃそうだ。
普通にしてるように見えても、国に追われてるんだからストレスは相当あるだろうし。
俺は女神像を咥えてそっとその場から離れた。
『薫子さん』
『ジズー、お疲れ様でした』
『ありがとう。
まずは一日目、無事に終わりそうだよ』
『それにしても、いきなりデリシャスミートを狩るなんてねー。
私ほんとにびっくりしたよ』
『あれはねー、典型的なビギナーズラックだろうね。
あ、そうだ。
気になったんだけどさ、俺って魔法使えるの?』
『ガイアの生き物は基本的にみんな魔力を持ってるから、簡単な魔法なら誰でも使えるようにはなるよ。
どしたの?魔法使いたくなったの?』
『澪と雫が地球に帰ったあとのこと考えたらさ、使えないとまずいかなーって。
火くらい起こせないと食事面ですごく不便というか大変というか』
『なるほど、確かにそうだね。
それなら澪と雫に教わったらいいんじゃない?
二人とも地球からガイアに来て魔法を使えるようになってるだし、一番参考になると思うよ』
『そっか、じゃあそうしようかな』
『まぁ、私は世界樹周辺なら降りれるから、二人を地球に送ったあとそこで教えることもできるから。
焦らずのんびりやるといいよー』
『あー、それもアリか。
薫子さんは世界樹周辺だけしか降りてこれないの?』
『だけってわけじゃないんだけどね。
神木で作った私の像の周辺にも降りれるんだけど、ガイアに数箇所しかないかなー』
『へぇー、どこにあるの?』
『……。
全部温泉地です……』
『えっと、えっ?
何か特別な用事とか緊急時とか、そういうんじゃなくて温泉に入るために神木の像を置いてるの?』
『温泉に入ってはいけないなんて決まりないし、別に問題ないし!
てか温泉があるのに入らないとか、意味がわからないし!』
『あ、はいすいません。
え、てかもしかして毎日温泉入ってるとか?』
『毎日っていう概念が私のいる場所とガイア、ひいては地球と違うかもしれないし。
まずはそこから議論して頂いて……』
『あ、もういいです。
まさか毎日ガイアに降りてるとは思わなかったなー』
『私が管理してる星ですしー。
私が自由に使うのは当然ですしー』
『はいはい、ちなみに温泉ってどこにあるの?
ニーゲン王国にもある?』
『え、なに覗きに来るの?
そんなこと宣言されても……』
『ちがうし!
単純に入りたいだけだし!』
『そんなに照れなくてもいいのに。
ニーゲン王国に一箇所あるかな。
王国南部の森の中。
まー、温泉の近くにジズーたちが来たら教えるよ』
『おー、ありがとう。
温泉楽しみだなぁ。
前世でも入ったことないんだよねー』
『そうなの?
じゃあぜひ入ってもらわないとね!』
それからもうしばらく雑談をしていたらあくびが出た。
『さすがに眠くなっちゃった。
今日はもう寝ようかな』
『あ、ごめん話しすぎちゃったね』
『ううん、気にしないで。
俺が話したかっただけだから』
『そっか、ありがと。(だからそういうことをさらっと言わないでよと……)
それじゃ、おやすみなさい』
『うん、おやすみー」
俺もなんだかんだで気疲れしてたのかもしれないなぁ。
みんなの所に戻って横になると、あっという間に眠りについた。
翌朝、日の出とともに目が覚めた。
百段たちはすでに起きていた。
「おはよう百段、桜、椿」
「ヒヒーン。(あぁ、遅いからそろそろ起こそうかと思っていたぞ)」
「「ヒヒーン。(おはようですわ)」」
「百段たちは朝が早いんだなぁ」
少ししたら澪と雫も起きてきて、昨日のように軽く果物を食べて出発した。
そして王都を出て三日目のお昼前、前方に街が見えてきた。
「おー、街が見えてきた」
「結構早く街に着いたなー。
桜たちのおかげだね。
そう言って桜の首を撫でる。
「そうだね~。
ありがと~椿ちゃ~ん!」
雫も椿を撫でる。
「百段もありがとね」
「ヒヒーン。(俺が望んだことだ、気にするな)」
「とりあえず……、街には行くんだよね?」
「うん、買いたい物あるからね」
「どうやって入るの?夜まで待ってこっそり入る?」
「うーん、ひとまず普通に入ってみようよ。
夜こっそり入っても指名手配が出てたら日中に買い物なんてできないしね。
どうせ指名手配が出てるとしたら、入り口でわかったほうが逃げやすいんじゃないかな」
「なるほど、そうだね。
百段たちがいるからその場合入り口のほうがいいか」
「私たちはこの服で門番の人には魔女と聖女だってバレると思うんだ~。
だから今回は緊急の任務で来たってことにしようよ~」
「おっけー」
「あ、俺はどうしよう……。
ここだと俺ってモンスター扱いなんだよね?」
「あー……、そっか。
じゃあ私の従魔ってことにしよう!
魔女といえば黒猫だしね!」
「それいいね~!
ジズーちゃんがしゃべらなくなったら澪ちゃんの魔力が弱くなってたりするんだよね!」
「借り物の能力だけど、ガイアにいる間はなくなると困るなー。
宅急便の子もすっごく苦労してたじゃん。
ジズー、しゃべれなくなっても気合でしゃべってよ?」
「言ってることがめちゃくちゃだ!
でも従魔ってことにするのはアリだね。
そうしよう」
しばらく歩いて街の入口に来た。
街に入るための列ができているので並ぶ。
するとなんだか周りから視線が集まってるような気がする。
ちょっとざわつき出したし、なんだろう?
「うーん、やっぱ黒髪は目立つなー」
「え?どういうこ――あ、そうか。
この国って黒髪は基本いないんだっけ」
「そうなんだよね~。
もうこの視線には慣れたけどね~」
「街に入れたら、明日一日使って髪を染めようか。
けっこう髪が痛むみたいだけど、この際しょうがないかな」
「う~ん……、そうだね。
ここは我慢だ~!」
「え、髪とか染めれるの?」
「さすがに日本のように手軽ではないけどね、一応ガイアにも脱色とか染色ってのはあるんだよ。
かなり時間かかるんだよ」
「へぇー、地球でも案外かなり昔から髪を染めたりとかあったのかな?」
「どうだろね~。
でもあったとしても不思議じゃないね~。
ガイアの脱色染色って別に魔法を使わなくてもできるからね~」
「はー、そうなんだ。
人はいつの時代もおしゃれに気をつかってたんだなぁ」
おしゃれを楽しむのはいいことだ。
俺は猫だけど、そのへん意識して生きていきたいなぁ。
前世はおしゃれどころじゃなかったし。
しっぽにアクセサリーのようなものつけるとか、手(前足)に腕輪みたいなのをつけるとか……。
変かな?
まぁ、やってみないとわかんないよな。
「魔女様!聖女様!」
おしゃれについていろいろ考えて並んでいたら前方から声がした。
「門番から魔女様と聖女様がいると聞いて来ました。
私はこの街の騎士団長のマッサルといいます。
本日はどのようなご用件でいらしたのですか?」
「団長さんでしたか、お勤めご苦労さまです。
私たちは任務で王国南部に行く途中です。
この街には二~三日滞在して出発しようと思ってます」
雫が聖女モードで対応している。
普段の雫を知ってると違和感でしかない。
「さようでございましたか。
お泊りはどちらに?」
「いろいろとやることもあるので、適当に宿でもとろうと思っています」
「かしこまりました。
もしなにかありましたらいつでもお声がけ下さい」
「ありがとうございます」
そしてそのまま門を通してくれた。
さすが魔女様聖女様、並ばずに入れるのね。
街の中に引き入れて捕らえるとかそういう作戦で演技している可能性もなくはないんだろうけど、この様子ならまだ指名手配とかは出てなさそうかな?
なにはともあれ、俺たちは無事に街に入ることができたのだった。
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