5.3 海苔もあるよ
天気のいい午後、校庭のベンチに座ってお昼を食べて、あたたかな陽ざしを浴びる。
閑野ちほは超感覚で横道灯里の隠された趣味を暴いたが、今は特技は使わず、おだやかに語りあう。
「灯里さんは・・・・・・」
「発見!」
ちほの問いかけを打ち消すように、電気科の生徒たちが乱入する。
「探したよ、灯里ちゃん」
男たちが続々と集合する。
「電気科生活をより明るくするために工夫してみた」
彼らは作業服の上から理科実験用の白衣を着て、防護メガネをかけている。
「これでエロメガネと同じだ。俺たちをエロメガネと思って、あこがれてくれ」
白い服とサングラスの仮想声優を模した得意げなニセ巽龍一郎がずらりと並ぶ。
ちほがおそるおそる灯里のほうに目を向ける。
灯里はまぶたに三角定規を入れたかのようにけわしい目をしている。
「あの、みなさんの気持ちはわかるんですが、いえ、やっぱりわからないんですが、なんていうか、こう、違う気がします」
「柔道着のほうがよかったかな? 白いし」
「努力の跡が見えますが、努力の方向を見つめなおしたほうが・・・・・・」
「メガネか?」
「道具より自分の心と向き合ってはいかがでしょう」
「はっはっはっ! 俺たちが灯里ちゃんを思う心はゆるぎないぞ」
灯里が怒りに震える手でスマートフォンを取りだすのが、ちほに見えている。
止めるべきだが、あきれて声も出ない。
「数理魔法陣、多重展開!」
灯里が数理魔法陣を発現させ、緑色の数字が地面に広がる。
2つ、3つと魔法陣が現れ、複数の残念砲弾が猫背で立ち上がり、ぶつぶつとうらみの言葉を吐く。
ここでもまた、悪意は
「いつもいつも人の気も知らないで大騒ぎして、しまいには大切なものまで」
灯里がふるえる手で端末を男たちに向ける。
「待って! もう少し時間があれば完成度を上げてみせるから」
「試行錯誤!」
「精度向上!」
口々に巽コスプレに前向きな決意を語る。
「何度もやるな!」
発射コマンドを入力するが、実行されない。
「安全装置がかかってた」
事故防止のため、電気科の人員は攻撃対象から外している。
灯里がそれを解除する間に、電気科の男たちが走って逃げる。
その背中を見て、灯里は安全装置を外し、さらに自分自身の怒りの念も注入させる。
「発射!」
「グワラゴワワワワ!」
残念砲弾は発射されたが、魔法陣の周囲をうめきながらぐるぐると回る。
「はやく飛べ! あいつらを消し去れ!」
いらだつ灯里の横でちほは指でちほスコープをつくり、周囲を観察する。
「残念砲弾には灯里さんの念もこめられています。ここには乙女2人が仮想男性について熱弁していた残念があるので、それに引き寄せられています。灯里さん、巽龍一郎好きすぎです」
「いいから飛べ!!」
灯里が出力を上げる。
数理魔法陣がゆがみ、残念砲弾が緑色に光る。
「危険です!」
「アァーカァーリィー!」
残念砲弾が灯里を襲う。
緑の光を発する実体のない腕がふるわれて、小型端末が粉砕される。
灯里は短い悲鳴を上げて倒れる。
「対念防御!」
ちほが灯里と残念砲弾の間に入り、両手をかざす。
手で残念をはじいて攻撃を防ぐ。
「逃げてください。怒りと悲しみの化身、ロンリー・グリーンの現出です」
残念測定士甲種一級のさがで命名するが、灯里は気を失った様子で動けない。
「電気科のみなさ・・・・・・ えー!」
男たちはすでにいない。
ちほと砲弾の間に灯里は倒れている。
「アァーカァーリィーイ?!」
やや語尾が上がり、巽龍一郎に似てなくもない声を発しながら、ロンリー・グリーンが灯里に向け手を伸ばす。
ちほが不慣れな技術で食いとめる。
「わたしは戦闘要員じゃないんです~」
早くも弱音を吐く。
念のかたまりが目の前で不気味にうめく。
「こういうの苦手なんです~」
ちほのポニーテールが念に反応して左右にゆれる。
「諦念科の人がいれば楽勝かもしれませんけど、わたしには無理です~」
ちほの動揺でポニーテールが扇風機のように回る。汗が流れる。
「ああ、ロボットアニメで基地のレーダーを見ながら、『パターン青、接近中です』っていう係の人になりたかったです。出番が少なくて本編とのからみもわずかだけど、ちょっと人気ある子になりたかったです」
ちほは泣き言をもらしながら両手を突き出して猛烈な圧力を受けとめるが、膝がゆらぐ。
「おうちに帰りたい、お風呂に入りたい、甘いもの食べながらアニメみたいです」
ちほが個人的な願望をわめくと、残念砲弾は激しく頭をふって、ちほの両手に頭突きをたたきこむ。
ちほが尻もちをつく。
「アァーカァーリィイイイイー!」
残念砲弾ロンリー・グリーンが灯里に襲いかかる。
ちほには悲鳴を上げる力もなく、念のモンスターが灯里に拳をふりあげるのを見る。
「マユゲ!」
ゆたかが海苔を持って乱入する。
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