5. おにぎり、サンドイッチ、笑いましょう
5.1 カレー大好き
初の実戦を勝利でかざり、生徒食堂に諦念科の生徒たちの声と笑顔があふれる。
「おいしいね。みなと、カレー大好き」
神妻みなとは、小さな体で大皿のカレーを掘るように食べていく。
辛さは控えたカレーソースにチキンと、大きめに切ったジャガイモやニンジン、タマネギを煮込み、その上に素揚げにしたナスとカボチャを乗せてある。やわらかくなった野菜の甘みと香辛料のさわやかな香りがごはんをつつむ。
「こぼしたらダメだろう。お行儀よく」
双子の兄・舟がみなとの口元のカレーをふく。
「お兄ちゃん、やさしい」
大鳥世音がほほえむ。
「量が多くて味が濃くって食べるのが楽で、みなと、貧乏人のごはん大好き」
「お行儀よく。ね」
舟が居心地悪そうにみなとの世話をする。
「ワシも大食いじゃが、小さい体で見事な食いっぷりじゃな」
柴木大吾が3杯目を食べながら感心する。
「呼び手の中でも音楽や踊りを使わずに精神力で天に働きかける人は 体力を消耗するからたくさん食べないといけないらしい」
薄井風貴が説明する。
同じく祈りの呼び手、白倉清らは皿の上で音もなくスプーンをすべらせる。手前から奥へすらりとすくいとり、口に運ぶ。何度かくりかえし、席を立つ。
「舟ちゃん、おかわり! 大盛りだよ」
舟が皿を手に立ち上がる。
「おなか、苦しいな」
スカートのホックをはずす。
「こら、お行儀が悪い」
舟が注意して、給仕場に行く。
先客のゆたかがおかわりを受けとるとカウンターの横に閑野ちほがいる。
「いっしょに食べないの?」
「スパイスの香りで、酔ってしまいます~」
感覚が鋭敏すぎるちほは酒に酔ったように顔が赤い。調理師さんから白いおにぎりを受けとり、よろめきながら室外へ出る。
「感覚がするどいのも大変だね」
ゆたかがテーブルにもどりながら、カウンターの中の仁藤羊太に声をかける。
今日の諦念科は到着が遅れたため、調理師さんの人数が足りず、羊太が手伝いに入っている。生徒の数のわりに大量のカレーがおなかにおさまっていく。
カウンターには清らが待っている。
お盆のように大きな皿にごはんを厚く敷いて中央をくぼませる。そこに湖のように熱いカレーソースを注ぎ込む。追加で煮込んたジャガイモは角が立ち、ニンジンはあざやかに赤い。
「ちょっと煮込みが足りないかもしれないんですけど」
「それもよいものです」
清らが笑顔で答える。
湖の堤防にあたる部分にトッピングを乗せていく。まずホウレンソウをおき、素揚げのカボチャ、レンコン、アスパラガス、輪切りのタマネギに、スライスしたゆで卵、ゆでたキノコ、コーン、あたためたトマト、それにキュウリのピクルスとオリーブ。
「カツはチキンとポークがありますが」
「はい」
「・・・・・・はい、両方はいりまーす」
羊太は揚げたてのカツを手早く切る。一口大になるよう十字に包丁を使う。
「では、これも」
かたいチーズをおろし金でこする。雪のようにカレーをおおい、とけていく。
白銀の乙女の瞳がかがやく。
「重いけど、もてますか?」
「今日はなんとよき日でしょう」
清らは軽々と5皿目のカレーを取り、テーブルへ向かう。
順番を待っていた舟の横を通るとき、パチンと音がしてスカートのホックがはじけ、そのまま落ちる。
「ァーーーーーーーーー」
超大盛のカレー皿を手に、細い悲鳴をあげながら立ちつくす。
「きゃはははは! パンツみえた、みえた!」
みなとが大声で笑う。
舟を待ちきれず、ゆたかのカレーを奪って食べていたみなとはひとしきり騒ぐと、急にがくんと力が抜け、カレーに顔をつっぷす。満腹まで食べて、そのまま寝る。
「みなとちゃん、おぼれてる!!」
「舟くん、気を失ってる!」
「清らさん、とりあえずカレーをはなして」
祝福のカレー・パーティーが一瞬にして前代未聞のパニックとなる。
世音がみなとをカレーの湖から救出する。
「うにゃ、ラーメン・・・・・・」
カレーを食べてラーメンの夢をみていた。
窓の外では、ちほがおにぎりを手に歩いていく。
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