4.7 すべてをあらわに
圧倒的危機の中、その少女は人形のように小さく、細い手足、明るい髪、陶器のような肌に、にこやかな笑顔をうかべて現れる。
「スグニメッセージカエシテエエエエ!」
ラヴ・ミー・ゴーレムが奇怪な叫び声と錠前を噴出させる。
狙われた少女は頬をふくらませると、大きく息を吐き出す。
錠前と煙が吹きもどされて、ゴーレムに当たる。
金網のバケモノが不思議そうに針金の手で自身の体をなでる。
「みなと・・・・・・」
「うんこ弱いバケモノじゃん。舟ちゃんもうんこちゃんなの?」
鈴をころがすような声色で汚言を連呼する。
「うんこちゃん、いえーい! きゃははは!」
鉄を吐くバケモノも呆然とする諦念科の生徒たちも気にかけずに、はしゃぐ。
「顔おもしろーい。のびる!」
ゆたかの顔を思う存分にもてあそぶ。
「なんじゃ、このガキは?」
「きーっく!」
大吾の股間を勢いよく蹴りつけ、ゆかいそうに笑い声を上げる。
「・・・・・・悪魔か、このガキはぁぁ」
「ぼくの双子の妹、みなと」
舟が苦しげに言葉をつなげる。
「神妻神社は代々、男女の双子が生まれる。男子は神官として社を守り、女子は巫女として神の妻となる」
「神の妻?」
「そう。神の妻となる者は、一切の嘘をつかず、すべてをあらわに思うままに生きなくてはならない」
神妻みなとは座りこんでいる清らの衣をひっぱって中をのぞく。
「舟ちゃん、すごいよ。ぼいーん! きゃははは」
清らの力ない抵抗もかまわず、大はしゃぎする。
「お兄ちゃんは欲望に負けたのに、妹は欲望まるだしなんだ」
風貴が感心したように両者を見くらべる。
ラヴ・ミー・ゴーレムは自分の右手にかじりつき、異音を発しながらむさぼり食う。さらに左手も食らい、口の中で練り上げる。
みなとは清らの衣の足元から中にもぐりこもうとしている。
「いくら思うままっていっても、あそこまでは」
「だから、いつも問題ばかりで入学も遅れてたんだよ!」
舟が清らの衣に頭をつっこんだみなとをひきずりだす。
全員が舟の苦労を思う。
「舟ちゃん、おなかすいた」
「まず残念を祓う」
「うん。はやくしよ」
ラヴ・ミー・ゴーレムは頭のあった部分の大半を口にして、際限なく黒い煙と火花を吐きながら、巨大な鉄と愛の弾丸をきたえる。
みなとは準備することもなく、気を整えることもなく、その場でくるりと回る。
最も原初の舞。
「かしこみ、かしこみ」
澄んだ声をのびやかに響かせて
罪はあらじと 吹きはらう
すべてあらわに 聞こしめせ
みなとの額に朱色の点が現れる。そこから朱の光が立ちのぼり、あわい雲を抜け、天をつく。
「
朱の線をたどり、天上から光の風が吹きおろす。
「ぬ!」
ちほスコープが真っ赤になり、指をはじかれる。
圧倒的な念の力が地上で赤い嵐となる。
諦念科の生徒たちは洗濯機に放りこまれたように翻弄される。
「きゃはははは!」
みなとはうれいなく迷いなく、ただ楽しそうに笑いころげる。
「力をしぼれ。みんなが目を回す」
力をたくわえすぎた舟の腕がぶれる。
「ラヴ・ミィィィィ!!!」
ラヴ・ミー・ゴーレムが無数の錠前と愛をかみしめてつくりあげた巨大鉄球を発射する。
直撃する線上にいる舟は、ゆたかをつかまえて、腕を頭に乗せて固定する。
「ちょんまげ?」
右手の人さし指と薬指の先を合わせ、中指とたばねる。
「
3本指から打ち出された朱の念が鉄球を貫き、ラヴ・ミー・ゴーレムをうがつ。
「ミィィィィ!」
最期の叫びとともに爆発し、錠前を四方に降らせる。
「やった! 万事解決! いたっ」
ゆたかの頭上に錠前が落ちてきた。
「あー、こわかったー!」
世音が安心して大きな声で本音をもらす。
仲間たちもようやく笑顔を見せる。
神妻みなとを加えた諦念科一同は、強敵に勝利をおさめて、その残念を払った。
巨木はなにもなかったかのようにどっしりと立ち、枝をひろげている。
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