無題4
月が朧気に霞む夜、一羽の白鳥が飛び立った。目を見張るような、優雅な所作で、美しさで、波紋を水面に一つ落とし、夜闇に舞う。この世界には自分以外何者も存在していないかのような、そんな凛とした気品を漂わせ、湖の傍に佇む少女には目もくれず、朧月に淡く光る森の向こうへと去っていった。
白鳥の飛び立ったあとの揺るがない水面を見つめ、少女は遠い過去に想いを馳せる。
さあぁ、と風が髪を撫ぜたような気がして、一歩足を踏み出した。そしてもう一歩、また一歩。少しずつ湖に近づいて、足元にゆらゆらと波紋をつくりながら、沈んでいく。下半身が浸かり、腹が、胸が、首が、湖の中へ消えた。それでも歩みを止めることなく、少女は進む。夜の湖と同じ、艶やかで深い黒瞳も、その湖と同化した。誰もいない。もうすぐ少女もいなくなる。
ぴちょん、と水の跳ねる音が一度だけ聞こえた。
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