「生きる」

 左の乳房がふるふると震える。鼓動に合わせて、震えている。そっと両手を乳房に当ててみる。柔らかい感触の下に、確かに鼓動を感じる。

 私は確かに生きている。

 輪郭の曖昧な何気ない日常が、この時だけはくっきりと形骸かたちを持つ。

 細い手足に浮き出る血管、日々伸びていく髪や爪。

 それらの脈動を身体ぜんぶで感じること。

 それが、生きるということなのだろう。


 生きづらい、と思うことは多い。どうあがいても報われないこともある。それでも、身体は熱を持ち、鼓動を刻み、日々を生きる。

 それは、勝手に止めてしまっていいものではない。命が尽きるまで、その最期の瞬間まで、精一杯の脈動を。

 年老いてもそれは変わらない。身体が生きている。心が生きている。それを、左の乳房で感じるのだ。手を当てれば、いつでも。

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