無題2

 ゆっくりと瞼を上げる。いつの間にか微睡んでいたのか、ふわふわ弛緩していた。真上から降る光が身体をじんわりと包む。眩しさに目をすがめて、伸ばしていた右腕を、陽光と自分の間に差し込んだ。真っ青なくらいに澄み渡った空を、雲がゆっくりと横切っていく。一際大きな雲が、飛行機を隠した。

 あの雲に乗っているみたいだ。

 微睡みから抜け出しきれていない頭で、ぼんやりそんなことを考える。そうか、ふわふわしたこの感覚は、雲の上だからなのか。このままどこまでも漂っていたい。行けるところまで、流されるままに行ってみたい。まとまらない思考は、あちこちへふらふらと。夢現実が混在している。びゅおう、と下から不意に風が吹いて、じんわり温もった身体の芯を、涼しさが通り抜けた。きんとした感覚に、頭が次第に覚醒していく。指の隙間から、さっきまで乗っていた雲が覗く。あの雲はまだ遠い。ここにいたって、届かない。

 あぁ、もう起きなくちゃ。


「おはよう」

 誰にともなく呟く。


 遠くでチャイムの鳴る音が響いた。

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