暗闇から

のいずらぐ

暗闇から

 目が覚めた。


 いつも通りの朝。


 それは、陽の光が差し込む。

 それは、小鳥のさえずりが聞こえる。


 爽やかな朝とは裏腹に、嫌な1日が始まる。

 何も出来ない。何も解せない。

 もうとっくに夜が明けたというのに、目の前は真っ暗。

 何も見えていない。


 そこは底なし沼のようだった。

 まだ足枷が取れていない。

 動けないままでいる。


 何年も、何十年も。


 外から、子供達の声が聞こえる。

 よい子は学校の時間だ。


 数十年前。

 たしかに私は真っ白だった。

 純粋で、無垢で、無知で、馬鹿で。

 何にでも染まれた。

 赤にも、青にも、黄色にも、緑にも、オレンジにも、紫だってそうだ。


 でも結局、黒に染まった。

 一度染まったら、綺麗な色には戻れない。

 ひどく濁って、汚いだけ。


 何も見えなくても、音は聞こえてくる。

 テレビの音、車の音、水の音、風の音、誰かの声だって。


 音はいつだって聞こえてくる。

 声もいつだって耳に届く。


「あなたは一体どんな人なの?」


 ある日、君は僕に言った。

 僕には分からなかった。

 僕は一体、誰なのか…

 なんて…


 僕は何者なんだろうか?

 そもそも、何も見えない僕には分からない。

 僕がどんな姿をしているのか。

 僕が、どんな性格であるのかも。


 君の真っ直ぐな瞳に、

 僕がどう映っているのかも。


 だから、教えて欲しいんだ。

 その声で、その言葉で。


 天使のような君だから。

 きっとまた言うのだろう。


「あなたは素敵な人よ。」と。



 僕にもいつか、分かる日がくるのだろうか。

 自分は何者で、何をするべきなのか。


 君のような、透明な心で、世界を見る事が出来るのだろうか。


 今だに分からないけれど。


 きっといつか、

 いや、絶対に。


 君と同じ景色を見るのを夢見て。


 今日もまた、深い深い闇の中で。

 また一人、生きるだけ。

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暗闇から のいずらぐ @zatuondou

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