夏、あまりにも深く

今年の夏は信じられないくらいに暑い。5月、いや6月あたりだっただろうか。

まだ梅雨にもなっていないというのに、いきなり気温が跳ね上がったのだ。


7月に入ると、30度以上の日が続き、熱中症になる人もかなりいた。コンクリートで熱された日差しは歩行者の肌を攻撃し、中身にも影響が出る。

こまめな水分補給や塩分補給が無ければ、暑さで倒れてしまうのも当たり前だ。

そんな中でも倒れずに仕事が出来ているのは身体が頑丈な証拠だろうか。


今年で23回目の夏、今年こそは、と思い旅行を計画したりしたのは良い物の、休みが取れず今年の夏も仕事だけして過ごす事になりそうだ。

学生時代の夏といえば、家に帰れば冷蔵庫の中にアイスがあり、夕飯時になれば昨日もそのまた昨日も出てきた素麺が出され「また素麺かよ」なんて言いながらも味わって食べたりしたものだが、社会人になってからは一度も経験していない。

今日もコンビニで味気のない飯を買い、冷蔵庫に入れている冷えたビールを飲んで寝るだけ。

退屈ではないが、面白みに欠ける。何もない。生活の中に何もないのだ。

あったらどうなるのか、なんていう話ではないが、あまりにも平凡で中身がない。

社会人になって学生時代に経験していった、中身の詰まった濃いものがどこをつついても出てこない。大人になったからと自分に言い聞かせるが、なにか寂しさのようなものもある気がしていて、中身のない今年の夏に違和感を感じている。


仕事が楽しくないわけではない。おっさん臭いが優しい上司、美人な先輩、それを自分のものにしようと躍起になる同僚。会社勤めのしがないサラリーマンとしては良い環境で働けていると思う。

ただ、平凡すぎる、そんな仕事ですら平凡すぎると感じる。

何かない物か、何か自分が平凡だと感じないような非日常が。

願っていても叶わないことは知っている。だが、願ってしまう。

平凡で何もなかった自分の生活の生活を彩る出来事が、何か、ない物か。


ぼんやりと考え込んでいたが、ふと時計を見ると昼休みが終わる10分前だった。

もう何回過ごしてきたか分からない、一人でぼんやり過ごしていた昼休みの時間も、もう終わる。自分は今過ごしている時間で、何かを成し遂げたり、生産したりできているのだろうか。


平凡な中身のない時間が、また、始まろうとしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る