無題

ミウラ

手持ち無沙汰。

寒い。今、外は何度だろうか。

外が寒いせいか、手を置いている机が、僅かにひんやりとしていて冷たい。

何を書こうと思ったわけではないが、長期休暇にありがちな手持ち無沙汰になってしまい、小学校から使っている机の引き出しを漁り、今ではすっかり使わなくなった鉛筆を取り出した。

特に何を書こうと決めていたわけじゃない。何か、こう、言葉では言い表せない物を描きたいような気分だった。

「ダメだぁ」と小さく呟き、机に突っ伏する。昔から思ったことをすぐ行動に移すのは良いと褒められていたが、すぐに飽きるか、もしくは諦めてしまう。

中学校での通信簿にもそんなことが書かれていた気がする。

通う高校を遠方にし、地元より少し離れたところで一人暮らしをしているため、中学の時の友達とは遊ばなくなってしまった。そこまで仲のいい友達がいたわけでもないが、放課後に寄り道をしたり、休日に出かける程度のことはしていた。

机に突っ伏したまま、紙に「心の距離」と書き込んだ。

自分でも何がしたいのかイマイチ分からない。何がしたい訳じゃない、ただ手持ち無沙汰なのだ。

しきりに足をパタパタさせたり、白い部分が残っている紙に、大きく丸を書いたりする。

「私って、何がしたいんだろう」

自問自答ほど不毛なものは無いと分かっていながら、口に出してしまった。

また中学の時の話になってしまうが、友達がやれ高校だ、進学だ、なんて話をしているのを聞いて、不思議と同じ高校に行きたくなくなった。その友達と仲が悪いわけじゃない。

話しかけられれば話すし、遊びに誘われれば遊びに行くぐらいの仲ではあった。でも、心の中にはわだかまりがあった。

気がついた時には、進路希望調査の紙には、地元から少し遠い高校の名前を書いていた。

それからと言うもの、例えどんなに仲がいい友達が出来たとしても、同級生と同じ選択肢や同じ物を選ばなくなっていた。

別にオンリーワンで居たいわけじゃない。自分は違うなんて特別な存在をアピールしたいわけでもない。誰かと同じ、そんなものが嫌になっていた。

思い出して憂鬱になってしまった。電話でもして気を紛らわそうか。ベッドに無造作に放っていた携帯を拾い上げ、スクロールして母の番号を探す。

家族とは、特別仲が良いわけでもなく、悪いわけでもない。至って普通の、ごく一般的な家庭だ。一つ違う所と言えば、両親にあまり反抗しなかった事だ。高校2年生にもなると「ウチの親ちょーウザいんだけど!」なんて愚痴を友達から聞かされるが、私はピンとこなかった。いつだって両親は正しかったし、私の意見をよく聞いてくれた。高校を選んだ時だってそうだ。高校生から一人暮らし、なんて、世の父親なら反対しそうなことを、「良いんじゃないか、やってみなさい」と背中を押してくれたくらいだ。

私の言うことを否定せず、背中を押してくれたからこそ、今こうやって何をすればいいのか分からなくなってるのかな。と思考を巡らせたが、両親のせいにしてはいけない。

なんて事を考えているうちに、呼び出し音が鳴り止み、母と電話が繋がる。

平日だったが、すぐに電話に出てくれた。

「もしもし?」

「あら、久しぶりじゃない。どうかした?」

「んーん、別に。暇だったから」

いつも通りの母だ。なんだか安心する。

「ねぇ」

「なぁに?どうしたの。」

母の声を聞いたからか、家に帰りたくなった。どうしようか、今行っても迷惑かな。そんな事を思っているうちに、母が私の様子を察したのか

「久しぶりなんだし、帰ってきたらどう?」

「うん」

にこやかに言う母の優しさのせいか、私は思わず返事をしてしまった。


あれから身支度をして、電車に乗った。

一人暮らしをしているアパートから実家まで、電車を乗り継いで1時間半くらいかかる。

暖房が効いた、暖かい電車の中で、うとうとしながら実家までの時間を過ごす。

「たまにはこんなのもいいな」

平日の昼間ということもあって、車両に人がいないので口に出す。少し笑みを浮かべて、うとうとしながら眠ってしまった。


気が付いたら実家の最寄駅に着いていた。

実家から駅までは近く、歩いて10分というところだ。冷たい風に煽られるようにして、実家までの道を急いだ。

「着いた」

2階建のごく普通の民家だか、とても安心する。久しぶりに来るとこんなにも楽しみな物なのか、そう思いながら玄関を開けた。


懐かしい家の匂い。嬉しくなって涙が出そうになるが、こらえる。

「ただいま」

寒さのせいか、それとも泣きそうになったからか。震えた声でそう言うと、家の奥から

「おかえり」

と、声が聞こえた。父と母が声を揃えて迎えてくれた。

懐かしい匂いと、懐かしい声。

思わず口角が上がり、靴を脱いで玄関へ上がる。長い廊下を駆け足で進んでいき

「ねぇねぇ!お父さん!お母さん!あのね!」

まるで学校で何か良いことがあった小学生のように、声を上げて父と母の元へ駆けて行った。

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