3、探し人
こんな訳の分からない物を何時までも自宅に入れておきたくはない。
ハルは朝食も摂らずに家を飛び出した。
(確か、世与東中って言ってたよね……)
唯一の頼みの綱である竜太を探す。
休日の学校に彼が居る確率は低いが、他に手掛かりが無いのだから仕方ない。
ハルは彼の連絡先を聞かなかった事を心底後悔した。
『ねぇ、ハル、ねぇ、ねぇ、私……ねぇ』
(頭、おかしくなりそう……!)
息も絶え絶えに辿り着いた中学校は意外にも部活中の生徒で活気付いている。
どうしたものかと立ち止まっていると、丁度走り込みをしている男子生徒がやってきた。
「あ、あの、すみませんっ」
「え? 俺?」
息を切らせる様子もなく彼は足を止める。
「あの、あの、天沼竜太君って子、ここの生徒さん、ですよね?」
「探してるんです」ともじもじする仕草に、彼は何か誤解をしたらしい。
彼はニヤついた様子でハルを見下ろした。
「天沼なら知ってるけど、今日は土曜だから学校来てないっすよ」
やはりそうかと肩を落とす彼女に同情したのか、面白がったのか──彼は話を続けた。
「家にも居ないと思うっす。前は知り合いのじいさん家に入り浸ってる奴でしたけど……多分図書館とか、公園とか? その辺フラついてると思います」
それだけ言って、彼は後から走って来た生徒の元へ行ってしまった。
礼の言葉が届いたかは不明だが、彼は妙に楽し気に友人に耳打ちをしている。
ハルは心の中で竜太に謝った。
新しく得た情報を頼りに図書館や公園を当たったものの、竜太を見付けることは叶わなかった。
男子生徒と話している間は止んでいた声もいつの間にか復活している。
早々に行くあても無くなり、ハルは途方に暮れた。
『ねぇ、ハル……ねぇ、寂し……ねぇ、ねぇ』
声は止まず、いたずらに時間ばかりが過ぎていく。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう……!)
彼女の精神が限界に近付いた時、はたと小道の先に鳥居があることに気が付いた。
小さな神社のようだ。
普段はあまり信仰心のないハルだったが、今ばかりは神にすがる他ない。
(少しでも効果があれば……)
散々走り回って棒のようになった足に鞭打ち、短い階段を上る。
白い石造りの鳥居をくぐると拝殿の脇にもたれるように立つ人物がいた。
「あっ!」
正に今まで探していた竜太だった。
彼もハルに気付き、小さな会釈をする。
以前と変わらぬ無愛想さが逆に彼女に安心感を与えた。
「酷い顔だね」
必死な形相で駆け寄る彼女に、竜太は明らかに引いてみせる。
どうやら生意気な態度も健在らしい。
ハルはどもりながら一連の恐怖を口にする。
しかし前回とさして変わらない支離滅裂な説明しか出来ず、彼女は己の言語力の低さを呪った。
こんな異常事態でなければ落下男の話なり礼なりを言う気でいたのだが、今の彼女はそこまで頭が回らない。
ひとしきり語った所で、聞きに徹していた竜太が口を開いた。
「今も声、するの?」
「……い、いえ」
「ふーん」
気付けばあれだけしつこかった声は嘘のように止んでいた。
彼はザクザクと砂利の音を立てながら神社の外に向かった。
「ちょっと
そういうものなのかと思いつつハルも彼に続く。
しかし鳥居の外に出ても何も変化は無かった。
(何で? さっきまではあんなに五月蝿かったのに……!)
「ほ、本当に聞こえてたの。嘘じゃない……!」
「……ハルさんが一人の時にしか出ないのかな?」
慌てる彼女をよそに、竜太は特に疑いもせず冷静に分析している。
確かに両親や男子生徒と話している間に声が聞こえる事はなかった。
逆に一人で不安がっている時ほど呼び掛けは酷くなっていたように思える。
それを伝えると竜太は再び長考に入ってしまった。
神社の木々が風に揺れて心地よい音を奏でる。
ハルはそっと髪を押さえ、大人しく彼の言葉を待った。
「……あいつらって、大抵自分に都合の良い奴か、自分に近い奴にすがるんだよね」
「そう、なの?」
「ハルさんって、もしかして寂しい人?」
その質問は彼女の心を容易く抉る。
それに加えて「友達いないの?」という追撃まで放たれた。
(何でこの子はこう、痛い所ばかり突くんだろう……)
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